鬼才の手でモダナイズされる日本随一の悲恋物語
ひとり芝居と人形劇を融合させたユニークな手法で傑作舞台を生み出す、唯一無二のアーティスト・平常(たいらじょう)。これまでにも東京文化会館とタッグを組んで数多の作品を手掛けており、2020年に初演された藤木大地主演の歌劇《400歳のカストラート》や今年2月の最新作『ピノッキオ』の成功も記憶に新しい(脚本・演出・美術、後者は人形操演も担当)。
そんな同館が主催するシリーズ企画“人形劇俳優 たいらじょうの世界”の『ギリシャ悲劇 王女メディアの物語』『Hamlet』『SALOME』に続く第4弾が登場。今回彼が挑むのは人形浄瑠璃や歌舞伎でお馴染み、近松門左衛門『曾根崎心中』の世界。台詞は原作の世界観を尊重しつつ、現代の観客向けに新たな台本を用意するとか。なお、平の真骨頂は人形と一緒にステージに上がり、一心同体になったり、時には“二心二体”になったりする、話し手に合わせて人形と自身の間でまるで“魂”を行ったり来たりさせるような独自の表現方法。今回も徳兵衛と遊女お初が心中を決意する名場面や、最大のクライマックスである“道行”の、死の旅へ赴く恋人たちの切ない心情をどのように描き出すか大いに期待したい。加えて、平とのコラボにおいて圧巻の演奏や見事な楽曲チョイスで聴衆を沸かせてきたチェリストの宮田大が、今回は“選曲”のみで参加し、既存のクラシックと日本の古典を融合させた新しい音楽を構築。田原綾子のヴィオラと大田智美のアコーディオンで、哀愁漂う魅惑的な旋律を聴かせてくれるのも楽しみだ。
文:東端哲也
(ぶらあぼ2023年9月号より)
2023.12/16(土)15:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp