オペラの醍醐味が満載された極上の舞台
コンサート・サイズに凝縮した上演時間とヨーロッパの劇場を思わせる馬蹄形の空間。声の魅力を間近に堪能できる第一生命ホールの「室内楽ホール de オペラ」に、「佐藤美枝子のオペラ『蝶々夫人』ハイライト」が登場する。佐藤美枝子の題名役のほか、登場人物をピンカートン(井ノ上了吏)、スズキ(与田朝子)、シャープレス(久保田真澄)の主要4役のみに絞り込み、アリアや重唱の間を朗読(女優・山本郁子)でつなぐハイライト版にまとめたのは音楽監督・ピアノの服部容子。ピアノ伴奏による演奏会形式(字幕付)で、シンプルな舞台セットや衣裳は用いるものの(演出:中村敬一)、華美な演出や豊饒なオーケストラ・サウンドを削ぎ落として姿を現すのは、プッチーニの音楽そのものであり、丸裸にされたオペラ歌手の生身の声だろう。オペラの醍醐味が詰まった舞台になるはずだ。
まだ十代の少女ながら芯の強いキャラクターの蝶々さんに、プッチーニはドラマティックなスピントの声を求めている。類まれなレッジェーロ、コロラトゥーラ・ソプラノとして活躍する佐藤にとってこの企画が初役だ。佐藤は「ベルカント・オペラのように母音唱法でレガートに歌いつつ、言葉の立たせ方や感情の入れ方をより現実的、三次元的に。音楽を会話で繋いでいくように作り上げる感覚」でアプローチしたいと語る。キャリアとともに獲得してきた中音域の充実も頼もしい武器に、新しい、佐藤美枝子の蝶々夫人がもうすぐ生まれる。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2021年3月号より)
2021.3/20(土・祝)14:00 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702
https://www.triton-arts.net