2016年に難関・モントリオール国際音楽コンクールを制した辻彩奈。日本人初の快挙も、このライヴ録音を聴けば、大いに納得がいくだろう。卓越した美音や技術は言わずもがな、才媛・辻の真骨頂は、その絶妙なバランス感覚。例えば、シベリウスの技巧的なパッセージだけでなく、緩徐部へ耳を傾けてほしい。彼女が、いかに細やかな心遣いを見せていることか。常に前面に出ようとするソリストが多い中、出るべき場面では出て、引くべき時は引く。その変幻自在で彫りの深い音楽創りが、若さにそぐわぬほどの限りない滋味を生む。共演のオケやピアノも、単なる“伴奏”を超えた、いい仕事をしている。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ2018年5月号より)
【information】
CD『シベリウス ヴァイオリン協奏曲 ―モントリオール 国際音楽コンクールを制した辻彩奈の世界―』
シベリウス ヴァイオリン協奏曲
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ
ストラヴィンスキー:協奏的二重奏曲
辻彩奈(ヴァイオリン)
ジャンカルロ・ゲレロ(指揮)
モントリオール交響楽団
フィリップ・チウ(ピアノ)
収録:2016年6月、モントリオール(ライヴ)
ワーナークラシックス
WPCS-13754 ¥2800+税