躍動するアジアの響き、中国深セン交響楽団が日本初上陸!

深セン交響楽団

 経済成長へと舵を切った中国政府が、香港と境を接した小さな港町を経済特区深圳(しんせん)市としたのは1980年のこと。新たな巨大都市を創るにあたり、政府は文化インフラ整備も重視。特区2年目のまだ何もない市に深セン交響楽団が設立された。英国文化圏の香港フィルでさえ、プロ化したのはやっと1974年である。賛否両論ある中国の都市開発だが、ヨーロッパ型楽団を不可欠な文化資産と判断したのは大英断だった。

 それから43年、深圳は「中国のシリコンバレー」として香港を凌駕するに至る。2007年には巨大な総合アーツセンターの一部を成す磯崎新アトリエ設計の音楽専用ホールが完成。永田音響が音響設計、「サントリーホールを手本にした」と関係者が隠さぬ最高水準の「深圳音楽庁」を本拠地に、深セン響も巨大都市のシンボルのひとつになった。

左より:林 大葉/篠﨑和子 ©Satoru MITSUTA/寧 峰

 今や世界に演奏家を輩出する中国音楽界にあって、深セン響も含めメジャーオーケストラは達者な外国人を集めた即席団体ではない。中国で生まれ、国内で音楽基礎教育を受けた演奏家たちと共に、地に足を付けた成長を遂げつつある。武満作品をベートーヴェンと同じ人類の古典と信じる21世紀の正統的モダンオーケストラは、祖国とベルリンで学び2012年にショルティ国際指揮者コンクールで優勝、深セン響音楽監督に任命され9シーズン目となる林大葉(リン・ダーイエ)の指揮棒の下、自国作曲家新作を含め西洋音楽語法の普遍性を信じ、正統的なクラシック音楽を響かせる。2022年から深セン響の駐団芸術家として関係を深めるハープの篠﨑和子と、中国初のパガニーニ国際コンクール優勝を誇り室内楽でも活躍するオールラウンダー寧峰(ニン・フェン)のヴァイオリンも、世界に開く新興都市の響きに花を添えよう。

文:渡辺 和

(ぶらあぼ2025年9月号より)

中国深セン交響楽団 2025年 日本公演
2025.11/4(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
11/8(土)14:30 京都コンサートホール
問:タクティカート03-5579-6704 
https://tacticart-concert.com