葵トリオのシューマン・シリーズ第3弾。ピアノ三重奏曲第3番は、デュッセルドルフ時代の好調ぶりが乗り移ったような情熱的な曲。一方で、晩年特有の錯綜したテクスチュアをもつが、葵トリオはそれらを巧妙に処理して、実に魅力的なものとしている。緩徐楽章の弦の対話は美しく、シューマンの内面を豊かに浮かび上がらせる。フィナーレの跳躍音の主題は、心の葛藤をそのままぶつけているようで、狂気と紙一重であり、息詰まる迫力がある。クララの曲では、第1楽章と第3楽章の主題が甘く優雅でとてもきれい。葵トリオが夫妻の音楽特有のポエジーと魅力をうまく引き出している。
文:横原千史
(ぶらあぼ2024年11月号より)
【information】
C0『葵トリオ《ライヴ at 紀尾井ホール 2024》III』
クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲
シューマン:ピアノ三重奏曲第3番
葵トリオ
【秋元孝介(ピアノ) 小川響子(ヴァイオリン) 伊東裕(チェロ)】
収録:2024年3月、紀尾井ホール(ライブ)
ナミ・レコード
WWCC-8016 ¥2750(税込)