沖澤のどかは初の「トゥランガリーラ交響曲」、フランソワ=グザヴィエ・ロトはブルックナーの交響曲第8番を

長野県松本市の夏を彩るセイジ・オザワ 松本フェスティバル(OMF)。創設者で永世総監督の小澤征爾が世を去って2年あまり。基軸となる世界の名人集団、サイトウ・キネン・オーケストラ(SKO)では世代交代も進むなか、2024年に沖澤のどかが史上初のOMF首席客演指揮者に就任し、ブラームスの交響曲やブリテンのオペラ《夏の夜の夢》などで高い水準を維持発展させてきた。

26年の沖澤&SKOは20世紀フランスの作曲家メシアンが第二次世界大戦終結直後にクーセヴィツキー音楽財団の委嘱で完成、バーンスタイン指揮ボストン交響楽団が世界初演した「トゥランガリーラ交響曲」に挑む(オーケストラ コンサート Aプログラム)。この作品は小澤が日本初演、後のボストン響音楽監督時代にも指揮した“名刺代わり”の勝負曲。今回、ユニークな電気楽器オンド・マルトノは定番の原田節、ピアノは気鋭の務川慧悟と、ソリストも万全だ。

オーケストラのBプログラムにはフランスの名匠ながら南西ドイツ放送交響楽団やケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団などドイツ語圏の楽団のシェフを歴任したフランソワ=グザヴィエ・ロトが招かれ、後期ロマン派音楽の最高峰を極めた傑作、ブルックナーの交響曲第8番を指揮する。ブルックナーは自作へ頻繁に改訂を施したため、演奏現場では今もエディション(楽譜の版)が問題となるが、ロトは作曲者自身による第2稿を基にしたハース校訂版を採用する。ピリオド(作曲当時の)奏法の実践者でもあるロトが、敢えて第1稿や新ブルックナー全集のノヴァーク版ではなくハース版を選んだわけで、一筋縄にはいかない演奏を期待できる。

SKOが近現代の作品を特集する流れを受け、メンバーが出演する「ふれあいコンサート」3公演のうち最初の2公演は、26年が没後30年に当たる日本の大作曲家、武満徹と彼が多大な影響を受けたとされるフランス近代の二大作曲家、ラヴェル(コンサート I)とドビュッシー(同 II)を組み合わせた。またコンサートIIIにはオルガンの名手、大木麻理を招き、トランペットのガボール・タルコヴィ、高橋敦、ヴィオラの川本嘉子とのコラボレーションでバロック音楽から20世紀までの名曲のパノラマを描く。オーボエの宮本文昭らSKOのベテラン・メンバーが講師を務め、木管アンサンブルのレッスンを行う「OMF室内楽勉強会」は、30年以上続く若手演奏家のための貴重な機会。さらに長野県内3ヵ所(計4公演)を巡回する「子どものための音楽会 ―交響曲とオペラハイライト―」(長野県内小中学生招待のみ)では、米国のベテラン指揮者カール・セント=クレアが小澤征爾音楽塾オーケストラ、若い世代の日本のスター歌手とともにJ.シュトラウス II 世のオペレッタ《こうもり》のハイライトを演奏するのが注目される。その前半にはベートーヴェン「交響曲第3番『英雄』」の第1楽章があるので、短いながらも本格的なウィーン・プログラムだ。

下段左より)豊嶋泰嗣 ©中倉壮志朗/山崎伸子 ©武藤章/ガボール・タルコヴィ/高橋敦/大木麻理 ©Mari Kusakari/川本嘉子 ©YOKO SHIMAZAKI
文:池田卓夫
2026セイジ・オザワ 松本フェスティバル
2026.8/16(日)〜9/2(水)
[オーケストラコンサート]
オーケストラ コンサート Aプログラム
8/22(土)、8/23(日)各日15:00 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
出演/沖澤のどか(指揮) 務川慧悟(ピアノ) 原田節(オンド・マルトノ) サイトウ・キネン・オーケストラ
オーケストラ コンサート Bプログラム
8/29(土)、8/30(日)各日15:00 キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
出演/フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮) サイトウ・キネン・オーケストラ
[室内楽]
ふれあいコンサート I ―ラヴェルと武満 徹―
8/25(火)18:30 松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)
出演/フェデリコ・アゴスティーニ、林七奈、ジュリアン・ズルマン、矢部達哉(以上ヴァイオリン) 横溝耕一(ヴィオラ) 工藤すみれ、宮田大、山本裕康(以上チェロ) フィリップ・トーンドゥル(オーボエ) 務川慧悟(ピアノ)
ふれあいコンサート II ―ドビュッシーと武満徹―
8/28(金)18:30 松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)
出演/ジェニファー・ギルバート、直江智沙子(以上ヴァイオリン) 川本嘉子、豊嶋泰嗣(以上ヴィオラ) 宮田大、山崎伸子(以上チェロ) セバスチャン・ジャコー(フルート) リカルド・モラレス(クラリネット) 務川慧悟(ピアノ) 吉野直子(ハープ)
ふれあいコンサート III ―ザ・コラボレーション―
9/2(水)18:30 松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)
出演/ガボール・タルコヴィ、高橋敦(以上トランペット) 川本嘉子(ヴィオラ) 大木麻理(オルガン)
OMF室内楽勉強会 ―木管アンサンブル―
8/16(日)15:00 松本市あがたの森文化会館(講堂)
講師/宮本文昭(オーボエ) 山本正治(クラリネット) 吉田將(ファゴット) 猶井正幸(ホルン)
[教育プログラム](長野県内小中学生招待のみ)
子どものための音楽会 ―交響曲とオペラハイライト―
8/24(月) ホクト文化ホール
8/26(水)、8/27(木) キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)
8/28(金) 長野県伊那文化会館
◎チケット購入方法
5/16(土)10:00 OMFウェブチケット会員限定先行発売開始
5/23(土)10:00 一般発売開始
https://www.ozawa-festival.com/tickets/online/

池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com


