
ここのところ数々のソナタを演奏・録音するなどして、モーツァルトに積極的に取り組んでいるヴァイオリンの庄司紗矢香。モーツァルトと、これまでどんな関係を築いてきたのだろうか。
「私にとって音楽上の最初のヒーローです。彼のエピソードや手紙なども読んで、子どもの時から親近感と賛嘆の念を抱いていました。お稽古事ではじめたピアノとの相性が悪く、ヴァイオリンをせがんだものの、最初はあまり真面目にやらなかった。でも先生から課題として協奏曲第3番をもらって、突然、これを弾きたい、練習をしたいと思ったんです」
取り組みはしかし、最近になってから活性化しているように見える。
「10代の頃はよく弾いていました。私がヴィルトゥオーゾ・タイプではなかったということもあるでしょうか。けれども音大に行くようになって、壁にぶち当たりました。演奏スタイルの問題ですね。古典派のアプローチに関して、禁止されていることが多くて。私に向いていないなと、諦めの気持ちが大きかったと思います。その後、C.P.E.バッハやL.モーツァルトなどの歴史的な理論書を読むようになり、さらに(鍵盤楽器奏者の)ジャンルカ・カシオーリとの決定的な出会いがあって、諦めが(「禁止」に対する)疑いに変わっていきました」
そこでどんな認識を得たのだろう?
「たとえばルバート。伴奏側は拍をきちんと取る。取らないと、メロディのほうでルバートできない。つまりずらしていいんです。一緒に弾くオーケストラにも、あえてここは私に合わせないでくださいとお願いします。私が最後に辻褄を合わせるので、と」
きたる6月に共演するカメラータ・ザルツブルクとは?
「今回の日本公演が初共演になります。彼らには彼らのやり方があるでしょうから、たとえば前打音の扱い方なども、私から(全部16分音符にしないで等)提案はしますが、受け容れてもらえる範囲で、ということになりますね。カデンツァは、自分で書いたものを弾きます」
芸術監督のアファナシー・チュピンは、あのテオドール・クルレンツィスと密に共演してきたヴァイオリニストでもあるから、きっと自由な発想で協働できることだろう。今回、庄司が弾くのは協奏曲第4番と第5番「トルコ風」。同じモーツァルトのヴァイオリン曲でも協奏曲はソナタと何が違うだろうか。
「ソナタのような対話ではありません。たとえば第2主題は、オーケストラが呈示するときは器楽的であり、いっぽうヴァイオリンでは声楽的な要素がある。全体にオペラ的なんですね。エンターテインメント的な要素もあると思います。でも決して軽いということではありません。そこに演劇的なモーメントが散らばっています」
モーツァルト演奏にあたって、好んでクラシック弓や生のガット弦を使用することもある庄司だが、そうでなければならないとは考えない。
「最終的には私の考えなんですよね。私が感じるモーツァルト。長年考えてきたこと、勉強してきたこと、新たな発見などを通して、私が信じるその曲のありかた。それを(聴き手と)シェアできれば」
自信をもってそれを提示できる段階にあるということですね、と言うと、彼女は嬉しそうに笑った。一段と風格を増した庄司紗矢香に、期待はいや増すばかりだ。
取材・文:舩木篤也
(ぶらあぼ2026年5月号より)
カメラータ・ザルツブルク 2026年日本公演
2026.6/9(火)♦19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
6/10(水)★、6/11(木)♦ 各日19:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
他公演
2026.6/6(土)★ 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)
6/7(日)★ 新宿文化センター(03-3350-1141)
★庄司紗矢香(ヴァイオリン) ♦イム・ユンチャン(ピアノ)
※公演により出演者、プログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。
