
取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)
マーチングの頂点に輝いたのは?
昨年12月6・7日、さいたまスーパーアリーナは熱狂に包まれた。マーチングの頂点を決める第53回マーチングバンド全国大会。小学生・中学生・高等学校・一般の4部門があるが、熱い青春のエネルギーがほとばしった高等学校の部を詳しくお伝えしたい。
大会では各地から集まった30団体が小編成・中編成・大編成に分かれ、磨きあげてきたショー(演奏・演技)を披露した。
特に今回は、例年以上に各校の個性が際立っていた。また、東海大学付属高輪台高校や滝川第二高校、東京農業大学第二高校のように、吹奏楽連盟主催の全日本マーチングコンテストでも活躍する学校の躍進も新たなトピックだった。

小編成部門
小編成には7校が出場した。
トップバッターの加藤学園高校(静岡)のショーテーマは「FUJI ROCK JAPAN」。ロックと和風の曲調を融合しながら、それをマーチングに落とし込むユニークなショー。冒頭から大会を盛り上げてくれた【銀賞】。
千葉敬愛高校(千葉)のショーテーマは「シャレード~トワイライト・イン・パリス」。映画『シャレード』の音楽に乗せ、25人の部員たちがときにリズミカルに、ときにムーディにパリの街角をマーチングで表現した【金賞】。

編成別の最優秀賞はダンテの『神曲』の世界を表現し、カラーガードのバトン演技が素晴らしかった山陽女学園高等部(広島)だった。バトンの演技が成功するごとに会場のボルテージが上がっていき、ショーが終わったときには大歓声に包まれていた。
中編成部門
一方、中編成には14校が出場。
中学生も含めて参加の関東学院(神奈川)はパブロ・ピカソのキュビズムの世界を色彩感豊かに描き出した。ゆったりしたパートの演奏をしっかり聴かせ、トランペットのハイトーンで会場を熱狂させ、最後は衣装も音楽も色彩豊かに締めくくった【銀賞】。

岐阜県立岐阜商業高校のテーマは「ジャングリア」。フロアを目いっぱい使い、野性味溢れるリズムや演奏、動きでさいたまスーパーアリーナをジャングルに変えた。今年のカラーガードは吹奏楽コンクールの時期は奏者となり、野球部が出場した甲子園の応援ではチアになった。多忙な中でも技術を磨いたガードの演技は見事に輝いていた【金賞】。

岡山県立倉敷商業高校は「The Rockn’Roll ~Legend of JAPAN~」と題し、加藤学園と同様にロックをテーマにしていた。奏者は黒のライダースに身を包み、いかつめのメイクでザ・ブルーハーツの《リンダ リンダ》、ハウンドドッグの《フォルテッシモ》、ボウイの《マリオネット》など、特に筆者のような50代以上の世代には直撃する曲を次々演奏。筆者自身も思わず体を動かしてしまったが、客席も大いに盛りあがっていた【銅賞】。
地元・北海道の澄んだ冬景色から春の訪れへ、季節の移ろいをマーチングで歌い上げた駒澤大学附属苫小牧高校も好演だった。雪の精を思わせるかのような白いドレスに身を包んだカラーガードが舞う中、奏者たちは一体感のある演奏と演技を披露。ピンクのスカートとフラッグをはためかせるカラーガードの華やかさとともに、北海道だからこその春到来の喜びを表現し、感動を呼んだ【銀賞】。

出色だったのは、編成別最優秀賞に輝いた茨城県立大洗高校。「影法師」というテーマで、激しさや迫力と幽玄の美を両立。パフォーマンス力に定評がある大洗高校だが、演奏面でも聴きごたえのあるサウンドが素晴らしかった。

なお、大洗高校の次には、永遠のライバルともいうべき沖縄県立西原高校が凄まじいショーを見せつけた。「Jalousie」をテーマに、圧倒的な演技力のカラーガードと、沖縄ならではの情熱でフロアを燃やし尽くすかのような奏者たちが観客の度肝を抜いた。今回は大洗高校に軍配が上がったが、今後も良き好敵手として地元沖縄とマーチング界を盛り上げてほしい【金賞】。
大編成部門
150名まで参加できる大編成は9校が出場した。
昨年度より女子校から共学になった明浄学院高校(大阪)は2年ぶりに全国の舞台に復活。「Reach for the Sky」をテーマにしたショーだったが、さすが吹奏楽コンクールでも強豪校として知られるだけあって、柔らかく澄んだ音色の美しさが印象的だった【銅賞】。

大分県立大分商業高校はゲーム『ファイナルファンタジー7』の音楽などに乗せ、アーサー王伝説をドラマティックに表現。レジェンド指導者・上野浩一先生の指揮のもと、衣装の色変えも駆使しながら、躍動感あるショーに仕上げていた【銅賞】。

何度もグランプリを獲得してきた神奈川県立湘南台高校は「CoMiX」をテーマに、観客を楽しませるツボを押さえた、抑揚のあるショーを披露。出場人数は90人弱と、ライバルたちに比べて少なめだが、それでもマーチングを知り尽くした構成、奇をてらわないショーでしっかりと盛り上げる力は出色だった【金賞】。

大トリの福岡大学附属大濠高校(福岡)は、ヘビが自分の尾を噛んで輪になり、永遠や無限を意味する「ウロボロス」がテーマ。各メンバーが手でヘビの形を表現したかと思うと、大人数で列を作って大蛇を描き出す。カラーガードの成功率の高いトスでテンションも高まり、独特の世界観を見せつけた【銀賞】。

そして、編成別最優秀賞とグランプリに輝いたのは「ザ・フォー・エレメンツ・オブ・ライフ」をテーマにした埼玉栄中学・高校(埼玉)だった。大人数での統一感のある演技と大迫力の演奏で会場はまさに熱狂。白い木の枝のようなプロップの使い方が秀逸で、芸術的ですらあった。
エメラルド色に輝いた東京農大二高
12回目の出場となった群馬県の東京農業大学第二高校のテーマは「インフェルノ・トゥ・ヘブン」。ベートーヴェンの楽曲をアレンジし、暗黒に支配された人の心が希望の光に満たされる様を描き、金賞を受賞した。
部長でサックス担当の須藤晴人(3年)は語る。
「全国大会前にたくさんの大会やイベントがあって練習時間は限られていましたが、濃密な練習を心がけてきました。全日本マーチングコンテストが銀賞で、その悔しさを晴らそうと、全員の心をひとつにして進んできました」
本番では、プール旗という大きな旗でフロア全体を覆っている間にメンバーがエメラルド色のマントを身にまとうシーンがクライマックスだった。
「旗が取り去られたとき、観客の驚きと熱狂を肌で感じることができました。自分たちでは完璧と思えるショーができ、3年連続の金賞受賞は嬉しかったです。ただ、グランプリには手が届かなかったので、来年は後輩たちに頑張ってもらいたいです」

一方、副部長でトランペット担当の大越日葵(3年)はショーの冒頭、もっとも緊張感が高まる場面でソロを奏でた。
「フロアの中央に奏者が集まり、黒い薄布で覆われた状態でショーがスタートします。その布が後ろへ取り去られていくときにソロを吹くので、うまく布が頭の上を通るか、しっかり演奏できるか……という不安はありました。でも、本番は良いソロが吹けて、みんなを勢いづけることができたと思います」
東京農大二高はフレンチホルンなども用いる吹奏楽編成が特徴。サウンドの質は非常に高かったが、そこに至るまでには苦労もあったと日葵は語る。
「私たちにとって、音圧が足りないというのが課題でした。どうやったら音圧を高められるのか、演奏リーダー中心に話し合い、全体に共有しながら改善を重ねてきました」
全国大会ではその成果が充分に出ていた。日葵も高校生活最後の大会を笑顔で締めくくることができたと言う。
「プール旗に覆われているとき、観客からは見えないので、まわりの部員たちと『あと少しだから頑張ろう!』とハイタッチをしたのが思い出に残っています。私は小4からトランペットを吹いてきましたが、高校で憧れの部活に入れて、さいたまスーパーアリーナでソロまで吹けて。最後に歓声に包まれて、頑張ってきてよかったなと思いました。悔いはありません」
全部員が成長を遂げた滝川二高
昨年初出場だった兵庫県の滝川第二高校は、全日本マーチングコンテストでの金賞受賞をひっさげて2年連続の出場となった。
ミュージカル《クレイジー・フォー・ユー》やゲーム「スーパーマリオ オデッセイ」の音楽を奏でながら、エンターテインメント性抜群の演出と豊かな響きのある演奏で観客を楽しませた。
部長でトロンボーン担当の山内咲来(3年)はこう振り返った。
「明るさや楽しさをどう表現するかが課題で、練習中のアドバイスはポジティブな言い方をするようにしたり、みんなで笑顔の練習もしたりました。本番では、客席から大きな拍手や歓声が聞こえてきて、マーチングをする楽しさでみんな自然と笑顔になれていたと思います」
審査結果は、昨年と同じ銀賞。ただし、進歩もあったと咲来は言う。
「点数を見ると順位は6位から4位に上がっていて、バンドとしての成長が感じられました。また、各パートの順位も上がっていたのが嬉しかったです。特にバッテリーはずっと順位が上がらずに悩んでいて、パートで少しでも時間を見つけては練習しているのを見ていました。その努力が実ったことも、同じ部員として喜ばしかったです」

全日本マーチングコンテストでは金賞だったが、マーチングバンド全国大会は同じ感覚で演奏・演技ができるわけではない。そこには特有の難しさもあった。
「マーチングコンテストは81人ですが、マーチングバンド全国大会は124人という部員全員での出場。音がずれたり、動きのひとつひとつが合わなかったり、苦労したところはたくさんありました。でも、本番はたくさんの声援を受けながら楽しくできたと思います。たぶん、さいたまスーパーアリーナでこんなふうに演奏できるのも最後かなと思いますし、本当にいい経験ができました」
座奏のときにはクラリネットを担当する向井美帆(3年)は、ドラムメジャーを務めた。純白のハットに燕尾服で登場し、指揮台の上でポニーテールを揺らしながらメンバーの演奏・演技を指揮した。
「ドラムメジャーになったのは先生からの指名でした。どちらかというと私には向いていない役割だと思いましたが、みんなにたくさん助けてもらいながら頑張ってきました」
本番は極度の緊張に襲われながらも、部員たちとともに積み重ねてきた練習を信じ、両手を振り続けた。
「特に練習の段階では、全体の動きをチェックできる位置にいるのは私なので、『そこは私が頑張ろう』と心がけてやってきました。結果として、動きに関する点数が高かったと聞き、ほかのもたくさんの人のおかげやけど、自分が頑張ってきた成果が出たのが嬉しかったです」
4位銀賞は、強豪揃いの大編成の中で誇ってもいい結果だ。しかし、美帆の思いは少し違っていた。
「私は悔しい気持ちのほうが大きかったです。金賞にまったく届かなかったわけやなく、あとちょっとだったというところに未練が残りました。ただ、指揮をしながらドラムメジャーとして大変だった1年を思い出して、自分の成長、みんなの成長を実感できました。いままででいちばん楽しくマーチングができました」
結果がすべてではない。そして、やはり感情はシンプルに整理できるものではない。だからこそ、青春の思い出になり、これから大人に成長していく高校生たちの糧にもなるのだろう。
マーチングバンド全国大会——それぞれに重ねてきた青春の日々と思いが百花繚乱のショーとなって、さいたまスーパーアリーナを鮮やかに彩った。すべての参加校、すべての高校生たちと指導者に改めて拍手を送りたい。
『吹部ノート —12分間の青春—』
オザワ部長 著
ワニブックス
⬇️⬇️⬇️これから開催される“吹奏楽”の公演を「ぶらあぼコンサート検索」でチェック⬇️⬇️⬇️

オザワ部長 Ozawa Bucho(吹奏楽作家)
世界でただひとりの吹奏楽作家。
ノンフィクション書籍『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』が第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出。ほか、おもな著書に小説『空とラッパと小倉トースト』、深作健太演出で舞台化された『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』、テレビでも特集された『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの「夜明け」』、人気シリーズ最新作『吹部ノート 12分間の青春』など。


