【SACD】歌曲集/藤村実穂子

 藤村実穂子のドイツ歌曲は、明瞭な発音で、実に味わい深い。マーラー「さすらう若人の歌」は、何と魅力的な曲集であることか。〈恋人の婚礼〜〉での辛い叫びや〈朝の野〜〉の夢想だけに終わる素敵な世界は痛々しい。〈〜燃える剣が〉では、心をえぐる剣が自分を苛む。リーガーのピアノがダイナミックに演出する。終曲では深い絶望の余韻を後奏が長く引き伸ばす。ツェムリンスキーの女性を主人公とする歌曲集は、独特の表現の癖やニュアンスを巧く捉えて、面白く聴かせてくれる。モーツァルトでは、さりげない小ドラマや、自らの死を予感するような観照がきらりと光る。細川俊夫の子守唄も不思議な味。
文:横原千史
(ぶらあぼ2025年12月号より)

【information】
SACD『歌曲集/藤村実穂子』

モーツァルト:静けさは微笑み、すみれ、夕べの想い/マーラー:さすらう若人の歌/ツェムリンスキー:メーテルリンクの詩による6つの歌曲、春の日/細川俊夫:2つの日本の子守唄 他

藤村実穂子(メゾソプラノ)
ヴォルフラム・リーガー(ピアノ)

フォンテック
FOCD9922 ¥3300(税込)