“ディーヴァ”デセイのオペラ・アリアに触れる最後の夜

左:ナタリー・デセイ ©Simon Fowler Sony Classic
右:フィリップ・カサール

 華麗なコロラトゥーラに加え、透明な抒情をしっとりまとわせた歌唱で魅了したナタリー・デセイ。世界のオペラ・ハウスを席捲した名ソプラノが、歌劇場の舞台から引退してリサイタルに専念したのは2013年だった。そして、今回の世界ツアーで、彼女のオペラ・アリアを聴く最後の機会となる。

 プログラムは、「別れ」と「出発」を織り込む。「別れ」を表わす作品は、モーツァルトの《フィガロの結婚》より4つのアリア。ケルビーノから伯爵夫人まで4人のアリアを歌い分けるのだ。それは、彼女のオペラ歌手としての歴史をそのまま示すことにもなろう。

 一方、「出発」を表すのは、メノッティ、バーバー、プレヴィンによるミュージカルに寄ったアリアだ。これからはミュージカル歌手としての活動に絞るという彼女の新境地を堪能したい。そして、ピアニストのフィリップ・カサールとともに研鑽を深めてきたフランス歌曲も並ぶ。そんなデセイの多彩さに触れる最後のチャンスだ。

文:鈴木淳史

(ぶらあぼ2025年10月号より)

ナタリー・デセイ(ソプラノ) & フィリップ・カサール(ピアノ)Farewell CONCERT
2025.11/6(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 

https://www.japanarts.co.jp

他公演
2025.11/2(日) 神奈川県立音楽堂(チケットかながわ0570-015-415)


鈴木淳史 Atsufumi Suzuki

雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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