
竹田舞音は東京藝術大学大学院オペラ専攻を修了し、カールスルーエ音楽大学国家演奏家資格課程を卒業。現在、日本とドイツを拠点に活躍中のソプラノだ。2024年に第93回日本音楽コンクールで第1位とともに複数の特賞を受賞し、さらに注目を集めるようになった彼女の魅力が詰まったリサイタルがヨコスカ・ベイサイド・ポケットで開催される。独・英・仏・日と多彩な言語の歌曲が並ぶ、色とりどりのプログラムである。
「歌曲は短いものがほとんどですが、それを花束のように集め、お聴きくださる方にお渡しする…というイメージで選んでいきました。声楽家であると伝えると、『オペラを歌っているの?』と聞かれることが多く、まだ歌曲の魅力があまり浸透していない印象を受けます。ぜひ歌曲の世界もこんなに素晴らしいんだ、と感じていただきたいのです。山田耕筰や中田喜直などの耳なじみのある曲はもちろんですが、ヴォルフやガーニーなど、“掘り出し作曲家”との新しい出合いも体験していただきたいです」
竹田の歌唱は、声はもちろんのこと、言葉さばきも美しく、作品の世界観を丁寧に伝えてくれる。多くの優れたリート歌手を輩出してきたカールスルーエ音楽大学ではどのようなことを学んだのだろうか。
「バリトンのハンノ・ミュラー=ブラッハマン先生に師事し、とくにディクションを徹底的にご指導いただきました。 『それが出来ていないと、あなたはよその国から来た歌手としか見てもらえないよ』と、本当に丁寧にあきらめることなくレッスンしてくださったことは私にとっての大きな財産になっています。とくにドイツ語の“S”の発音はいまでも楽譜に出てくるたびに注意されていたことを思い出しますね」
リートは声楽とピアノによる最小の室内楽といえるアンサンブル。竹田の歌を支えるのは同じくカールスルーエで学んだ左近允(さこんじゅう)茉莉子だ。
「左近允さんが弾いてくださればそれだけで安心して歌える、というくらい信頼しています。同じドイツの景色を見て、ドイツ語に触れていたというのも大きいですね。それぞれが作り上げた音楽が重なり合うことで、私の色がもっと鮮やかになり、形が見えてくるという感覚があります」
シューマンからマーラー、シェーンベルク、ラヴェル、そして日本歌曲まで──その幅広いレパートリーを通じて、歌曲の楽しさと奥深さの両方を味わえるリサイタルとなりそうだ。
「お好きな曲やご存知の曲はもちろんですが、聴いたことのない作品との出合いもぜひ楽しんでいただきたいです。美術館をふらっと歩いていた時に“これはなんだ?”と感じるような作品に心惹かれたりすることもありますよね。そういう体験をしていただけたらとてもうれしいです」
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2025年9月号より)
フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ シリーズ67
竹田舞音ソプラノ・リサイタル
2025.9/23(火・祝)15:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
https://www.yokosuka-arts.or.jp

長井進之介 Shinnosuke Nagai
国立音楽大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学に交換留学。アンサンブルを中心にコンサートやレコーディングを行っており、2007年度〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞受賞(史上最年少)を機に音楽ライターとして活動を開始。現在、群馬大学共同教育学部音楽教育講座非常勤講師、国立音楽大学大学院伴奏助手、インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターも務める。
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