『ぶらあぼ』誌面でご好評いただいている海外公演情報を「ぶらあぼONLINE」でもご紹介します。海外にはなかなか出かけられない日々が続きますが、“妄想トラベル”を楽しみましょう!
[以下、ぶらあぼ2023年7月号海外公演情報ページ掲載の情報です]
曽雌裕一 編
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まずはオーケストラの注目公演から。指揮者キリル・ペトレンコのファンにとっては待望久しいマーラー交響曲第8番「千人の交響曲」の演奏会がある。とは言っても手兵のベルリン・フィルのコンサートではなく、長らくシェフを務めたバイエルン州立歌劇場のオーケストラ「バイエルン州立管」に堂々帰還しての演奏会。このオーケストラの創立500周年(!)を記念する演奏会でもあり、ペトレンコの再登場、しかもマーラーの「千人」という祝祭的な公演となっている。日本ではちょうど「スポーツの日」の祝日に絡んだ公演日程なので、海外には出やすいタイミングかもしれない。
もう一つのミュンヘンの話題は、バイエルン放送響の新音楽監督となったサイモン・ラトルがいよいよ本格始動するということ。9月下旬のハイドン「天地創造」を皮切りに、10月にかけては、こちらは同じマーラーの交響曲第6番で勝負に出る。いやミュンヘンは面白い。
さらには、11月に来日するオーケストラの現地での10月の公演予定を見るといろいろ興味深いことが分かってくる。まずはウィーン・フィル。来日公演の曲目に、ラン・ランがサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番を弾き、メインにプロコフィエフの交響曲第5番が演奏される日があるのはご承知の通り。ただ、ウェルザー=メストがウィーン・フィルでなぜこうした異色曲を選曲したのか違和感を感じられた方も少なくないのではないだろうか。実は、ウィーンでは10月にこれと全く同じ曲目をトゥガン・ソヒエフが振っているのだ!!そう、本来はこの曲目のコンセプトはソヒエフの指揮が前提にあったものと思われる。それを来日公演の責任指揮者としてメストが引き受け、そのまま日本で演奏する、という流れになっていることが分かる。ベートーヴェンの交響曲第4番とブラームスの交響曲第1番のプログラムも同様。実は、ウィーン・フィルが同じ曲を短期間のうちに違う指揮者で演奏することは珍しいことではない。ソヒエフとメストでこれらのプロを聴き比べられれば本当はもっと面白いのかもしれないが…。
ところで、今や世界中のメジャー・オケで引っ張りだこのソヒエフは、10月だけでも、ウィーン・フィル、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、ミュンヘン・フィルに登場する。中でも、ゲヴァントハウス管で振るショーソンの交響曲はこれは聴きものだ。来日公演などでは“絶対”聴くことのできない興味津々のユニークな選曲。もう一つ、来日直前のチェコ・フィルの公演にも注目。日本公演と同じオール・ドヴォルザーク・プロがビシュコフの指揮で繰り広げられるが、日本公演と違うのは、各プロの1曲目にドヴォルザークの序曲が加えられていること。これ、日本でも聴きたかったなあ…と思われるファンの方は多いはず。アンコールでやってくれないだろうか。
さてオペラの話題が後になってしまったが、2023/24シーズンは、コロナが落ち着きつつある影響か、ワーグナー「ニーベルンクの指環」の注目新演出が続々登場する。10月も、バーゼル歌劇場でノット指揮、ベネディクト・フォン・ペーター演出の「リング」、モネ劇場でアルティノグリュ指揮、ロメオ・カステルッチ演出の「リング」がスタートする。これはどちらも大注目のプロダクション。その他、ウィーン国立歌劇場のR.シュトラウス「影のない女」(ティーレマン指揮)、カウンターテナーとして有名なベジュン・メータが指揮をするヘンデル「テオドーラ」(アン・デア・ウィーン劇場)、ワルトラウト・マイヤー最後の出演かもしれないR.シュトラウス「エレクトラ」(ベルリン州立歌劇場)、定番グリゴリアンの歌う「サロメ」(ハンブルク州立歌劇場)、ミンコフスキ指揮のヴェルディ「ドン・カルロ」(ジュネーヴ大劇場)等々、注目公演目白押し。なお、モーツァルト「フィガロの結婚」とブリテン「ピーター・グライムズ」の公演がなぜかやたらと目に付くのが10月のもう一つの特徴でもある。
(曽雌裕一・そしひろかず)
(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)