藤倉大は演奏者との緻密な協業を通じて曲を作り、アルバム制作ではミキシングまでも手掛ける。そうした姿勢は本盤にも明瞭な個性を与えている。琵琶からフォルテピアノまで、古今東西の楽器によるソロ作品は、どれも豊かなアイディアで奏者・楽器の可能性を巧みに引き出している。また自然な臨場感からヴァーチャルな印象を与えるものまで、トラックごとに様々な音像が出現するのも興味深い。表題作・ヴィオラ協奏曲「ウェイファインダー」はノスタルジックな香りを漂わせる独奏を、それを包むアンサンブルと滲み溶け合わせることで、大自然をさまよう孤独な旅人の姿を浮かび上がらせた。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年8月号より)
【information】
SACD『藤倉大:ウェイファインダー/アンサンブル・ノマド 他』
藤倉大:ウェイファインダー—ヴィオラ協奏曲(アンサンブル・ヴァージョン)、チャーピング・バード〜ソロ・パーカッションのための、ゆらぎ〜尺八のための、ハーフ・ムーン〜琵琶のための 他
アン・レイレフア・ランツィロッティ(ヴィオラ)
佐藤紀雄(指揮)
アンサンブル・ノマド 他
収録:2022年7月、東京芸術劇場(ライブ) 他
ソニーミュージック
SICX-10019 ¥3300(税込)