垣岡敦子&宮里直樹の《マノン・レスコー》、迫真のドラマが映し出す愛の行方

左:垣岡敦子 ©FUKAYA/auraY2
右:宮里直樹 ©FUKAYA/auraY2

 《マノン・レスコー》は難しい。特にプッチーニのオペラでは、マノンは第1幕では清楚な美少女なのに、次第に男を狂わせる「ファム・ファタール(宿命の女)」へと変貌する。それでも最後まで、どこか純真さも同居している。

 したがって、この役を歌うソプラノには、清らかでやわらかい声が求められるのはもちろん、そこに邪悪さを滲ませたり、欲深い表情を加えたり、激しい心の動揺を表したりと、まさにニュアンスを縦横に変化させ、この役の多面性と心の移ろいを表現する力が必要とされる。

 だからこそ垣岡敦子は、この役を歌うのだろうと思う。

 イタリアからの完全帰国後に始めた「AMORE〜愛の歌」シリーズはこれが11回目。いつも垣岡は、息に乗せて自然に広がる柔らかい声で空間を満たし、声質を維持したまま劇的な感情も表出し、必要なら力強さも加えてきた。要するに、声を無理なく響かせ、強弱の間を行き来しながら、ニュアンスや色彩を加えて人物像を造形できる。だったら、マノンという難役にも迫真性をあたえられるに違いないわけだ。

 しかもデ・グリューは、シリーズのパートナーで日本を代表するテノールの宮里直樹。持ち前のやわらかい声とスタイリッシュなフレージングに、最近は強さも加わり、情熱的な青年像が想像されワクワクする。表現力を増している大川博のレスコー(マノンの兄)も加わり、オペラを知り尽くした村上尊志(音楽監督/ピアノ)がプッチーニの音楽をスタイリッシュに煽る。聴き逃せない。

文:香原斗志

(ぶらあぼ2026年5月号より)

垣岡敦子 & 宮里直樹 AMORE ~愛の歌 vol.11
プッチーニ 作曲 歌劇《マノン・レスコー》全4幕 ハイライト版
2026.6/14(日)15:00 王子ホール
問:新演コンサート03-6384-2498 
https://www.shin-en.jp


香原斗志 Toshi Kahara

音楽評論家。神奈川県生まれ。早稲田大学卒業、専攻は歴史学。イタリア・オペラなどの声楽作品を中心にクラシック音楽全般について執筆。歌声の正確な分析に定評がある。日本ロッシーニ協会運営委員。著書に『イタリア・オペラを疑え!』『魅惑の歌手50 歌声のカタログ』(共にアルテスパブリッシング)など。歴史評論家の顔もあり、近著に『お城の値打ち』(新潮文庫)。