INTERVIEW 上田晴子(ピアノ)&門脇大樹(チェロ) ――響きの核心を求めて

埼玉・コピスみよしで公開マスタークラス(無料)とデュオ・リサイタル開催

 美しい響きが多くのアーティストに愛されている埼玉県のコピスみよし(三芳町文化会館)。同館ではこれまで、国内外で活躍する演奏家を招き、リサイタルと公開マスタークラスを組み合わせた特別企画を継続して開催してきた。今年は、パリ国立高等音楽院で長く教鞭をとるピアニストの上田晴子と、日本フィル ソロ・チェロ奏者で東京音楽大学准教授として指導にもあたる門脇大樹が登場。室内楽やアンサンブルの醍醐味を次世代へ伝える貴重な機会となるマスタークラスと、多彩な楽曲が並ぶリサイタルが開催される。

門脇「上田さんと初めてご一緒したのは、東京藝大ジュニア・アカデミーでの室内楽レッスンでした。共演者として中学生たちとベートーヴェン作品に取り組み、そのレッスンを上田さんが担当してくださっていました。上田さんの指導は、楽器ごとの響きや耳の使い方にまで及び、目から鱗が落ちるような経験でした。その後、上田さんからお声がけをいただき、ほかの講習会でもご一緒する機会に恵まれました」

門脇大樹 Hiroki Kadowaki

上田「門脇さんの演奏は人柄がそのまま表れていて、とても誠実なのです。このまま藝大アカデミーだけで終わってしまうのはもったいないと思い、その後も私が関わる講習会で門脇さんにお越しいただくようになりました。実は演奏会でご一緒するのは今回が初めてなので、とてもうれしいです」

 門脇が特に印象に残っているのは、上田のアンサンブルに対する考え方だ。

門脇「チェロは音域が低く、両者が自然に響き合うバランスを見つけるのが難しい楽器です。だからといって、ただピアノの音量を下げれば良いわけではありません。上田さんは相手、そして楽器ごとに、どの音が最も自然に響き合うのかを探りながら演奏されています。実際、一緒に演奏すると、自分の楽器が一人で弾くときよりも豊かに響く感覚がありました。それがあまりにも不思議で、“どうしてこんなことができるのですか?”とお尋ねしたことがあります。そのとき上田さんは“楽器と対話しているのです”と答えてくださいました」

上田「常に、共演する楽器が最もよく共鳴する音や響きを探っていますね。そして共演者がどんな音楽をしたいのかを感じ取り、自分に何ができるかを考えています。また作品と作曲家の核心に入りたいという想いも大切にしています。マスタークラスでは、そのために必要な和声の聴き方やフレーズの構築についてもお伝えしたいです」

上田晴子 Haruko Ueda

 上田のアンサンブル観の形成には、12年間にわたって共演を重ねた世界的ヴァイオリニスト、ジャン=ジャック・カントロフの存在が大きく影響している。

上田「ご一緒する方がどういう音楽をしたいのかを感じ取り、私は何ができるだろうと考えるのです。とくに12年にわたり共演してきたジャン=ジャック・カントロフさんとのアンサンブルは音楽づくりに大きな影響を与えてくれました。ちなみに、彼とのリハーサルで譜めくりしていたのは、当時10歳前のアレクサンドル君でした!」

 特に印象に残っているのは、リハーサルでの音づくりへの徹底した探究心だという。

上田「彼は常に音色の違いを追求していました。リハーサルは単に合わせる場ではなく、音の可能性を探る場になっていましたね。時には、私に対しても“その音はボウイングが違っている”という指摘がありました。ボウイングによって生まれる音の方向性やニュアンスまでをピアニストに求めていたのです。それに応えようと試行錯誤を重ねるなかで、ピアノを弦楽器のように歌わせるための新たな奏法や表現の可能性を発見することができました」

門脇「弦楽器とピアノは音の出し方が全く違いますが、響き合う瞬間があります。違う楽器同士が本当の意味で響き合った時の喜びを感じてほしいです。これが共鳴するということか、と感じる瞬間を、今回の公開マスタークラスではぜひ味わっていただきたいですね。そして私自身、上田さんと演奏会で共演するのは今回が初めてです。上田さんは一度レッスンを受けるだけでも、引き出しが三つも四つも増えるような方です。どんな発見があるのか、今から何が起こるだろうとワクワクしています」

 二人の共演によるリサイタルは、ドビュッシーとブラームスのチェロ・ソナタ第2番を軸に、シューマン、フォーレ、バルトークなどの小品を織り交ぜた内容となっている。非常に多彩な選曲であり、上田と門脇の音楽性の幅広さが実感できる。シューマンの「幻想小曲集」作品73やフォーレの「パピヨン(蝶々)」作品77は旋律の歌いまわしのニュアンス、バルトークの「ルーマニア民族舞曲」は民族色豊かな色彩とリズムの躍動感が求められる作品で、ドビュッシー、ブラームスのソナタは多彩な技巧と和声の響きをピアニストとチェリストが緻密に紡ぎ上げていかなければならない。
 取材では、両者ともに「相手の音に耳を傾けること」の重要性を語っていたが、このプログラムはまさにそうした対話の積み重ねによって成り立つ作品群といえるだろう。

門脇「せっかく上田さんと共演できるので、大きなソナタはぜひ入れたいと思いました」

上田「ソナタのみで構成するプログラムという案もありましたが、肉料理ばかり並ぶフルコースよりも、色々な味を経て、最後に大きな作品を味わえるようなプログラムをお届けしようということになりました。ブラームスのチェロ・ソナタ第2番は、以前のレッスンで門脇さんと緩徐楽章を弾いた際、あまりの充実感に思わず最後まで通してしまった思い出の作品でもあります。今回全楽章をご一緒できることがとても嬉しいです」

 コピスみよしの優れた音響空間の中で響き合う二人の音楽。そして、その前日に開催されるマスタークラス。レッスンでは二人が大切にする音楽づくりやアンサンブルの考え方に触れ、翌日のリサイタルではその魅力を、演奏を通して体感することができる。二人の音楽観と演奏、その両方を味わえる貴重な機会となるだろう。

【Information】
コピスみよし上田晴子&門脇大樹フライヤー
上田晴子(ピアノ) 門脇大樹(チェロ) 公開マスタークラス
2026.11/14(土)18:15 埼玉/コピスみよし(三芳町文化会館)

入場無料(全席自由/未就学児入場不可)
部門(予定):ピアノ・ソロ/チェロ・ソロ/アンサンブル(室内楽)
※入場には無料の入場券が必要です。コピスみよし窓口またはお電話でお申し込みください。
https://www.miyoshi-culture.jp/event/33343/

上田晴子&門脇大樹 デュオ・リサイタル
2026.11/15(日)15:00 埼玉/コピスみよし(三芳町文化会館)

R.シューマン:幻想小曲集 作品73
G.フォーレ:パピヨン(蝶々)作品77
G.フォーレ:エレジー ハ短調 作品24
C.ドビュッシー:チェロ・ソナタ ニ短調 L.135
B.バルトーク:ルーマニア民族舞曲 Sz.56
J.ブラームス:チェロ・ソナタ第2番 ヘ長調 作品99
https://www.miyoshi-culture.jp/event/33279/

問:コピスみよし(三芳町文化会館)049-259-3211
https://www.miyoshi-culture.jp


長井進之介 Shinnosuke Nagai

国立音楽大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学に交換留学。アンサンブルを中心にコンサートやレコーディングを行っており、2007年度〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞受賞(史上最年少)を機に音楽ライターとして活動を開始。現在、群馬大学共同教育学部音楽教育講座非常勤講師、国立音楽大学大学院伴奏助手、インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターも務める。
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