田中聰の作品における独特の空気感。飾り気がなく親しみやすいシンプルなその相貌に接しては「癒やし」などという単語すら出てきそうだけれど、その研ぎ澄まされた音の配置はあらゆる選択肢の中から強烈な意志を以て余分を切り捨てた作家性とでも呼ぶべきものがあり、その匿名性と個人性、遠心性と求心性の混在が堪らない魅力を放つ。そんな田中作品を盛んに演奏してきた大坪純平によるアルバムが本盤だ。収録曲全16曲のうち4曲にはゲスト共演者が参加、中でも〈早春賦〉や〈浜辺の歌〉といった日本の唱歌を用いた「四季」では椿義治のサックスともども信じ難い清澄さが聴かれる。必聴。
文:藤原聡
(ぶらあぼ2021年12月号より)
【information】
CD『風に聴く 田中聰ギター作品集/大坪純平』
田中聰:サン・イルデフォンソの夜想曲、アルバム・リーフ、風に聴く、イントロダクションと野口雨情による3つの詩、楽園へ、ソングライン、ネイティヴ・ストーン、アランフェスの庭、デイブレイク、四季、スノードロップ/中山晋平(田中聰編):シャボン玉 他
大坪純平 土橋庸人(以上ギター)
小坂梓(ソプラノ)
神野文子(朗読)
椿義治(サクソフォン)
録音研究室(レック・ラボ)
NIKU-9039 ¥3080(税込)