「もし武満が生きていたら、どんな表現に挑戦していただろうか」――現代の表現者たちとの出会いで、武満徹の音楽が新たな表情をまとう

文:室田尚子

 1996年に65歳で亡くなった武満徹。クラシック音楽のファンであれば、1957年に発表された「弦楽のためのレクイエム」を耳にしたことのある人は少なくないだろう。また、ドラマや映画などでそうとは知らず武満の音楽に接している人は、かなり多いはずだ。ほぼ独学で作曲を学び、日本よりも先に世界で火がついた作曲家。100本を超える映画音楽や舞台音楽、歌曲、オーケストラ作品などを残した「世界のTAKEMITSU」は、欧米をはじめとする海外で、多くのアーティストに影響を与えた。

TORU TAKEMITSU
©Tetsuya Fukui

 そんな武満徹の没後30年の節目に生まれるステージ。NHK音楽祭関連企画として立ち上げられた「ASOBIBA TAKEMITSU」と題するこの企画は、いわゆるクラシックのコンサートではない。「武満の音楽で、遊ぶ。」というコンセプトのもと、ジャンルを超えたアーティストたちが武満の音楽と向き合い、自身の感性から新たな表現を紡ぎ出す。

 音楽監督を務めるのは、2018年に名門ドイツ・グラモフォンから史上初のクラシック音楽専門DJとしてデビューした水野蒼生だ。水野は、「もし武満徹が2026年に生きていたら、どのような音楽を作り、どんな表現に挑戦していただろうか」という問いからこのステージを発想したという。軸になるのは、1995年にニューヨーク・フィルハーモニックによって初演された「系図〜Family Tree〜」。ニューヨーク・フィルが創立150周年を記念して武満に委嘱した作品で、少女の語りとオーケストラによって演奏される。水野は全6曲を場面ごとに配置し、間に「死んだ男の残したものは」などの歌曲や映画音楽作品、また合唱曲などを織り交ぜながら90分ほどのステージへと再構成するという。演出を担当するのは「この作品は武満徹の思想を象徴する作品のひとつ」と考える小栗了。そして、朗読と進行は、独自の身体表現で注目を集める俳優・坂口涼太郎が務める。ステージは水野が創設した水野電氣交響楽団の演奏に、音楽・朗読・舞台美術などが多角的に組み合わされ、ひとつの総合芸術作品となる。

左:水野蒼生 右:坂口涼太郎

 個人的な思い出をひとつ書くと、私と武満徹との出会いは大学時代に初めて行った「現代音楽」のコンサートだった。調性や音素材そのものを解体し、図形楽譜など五線紙によらない音楽が次々に披露されるそのコンサートで、ドビュッシーやメシアンを思わせる武満の曲はかなり異質に響いたのを覚えている。それから、彼が手がけた映画音楽やドラマの主題曲などを聴くようになってそのポピュラリティに驚くとともに、いわゆる「劇伴音楽」とは明らかに違う、透徹した芸術性とでもいうべきものに魅了された。水野蒼生も「一般には“難解な現代音楽の作曲家”という印象で語られがちな武満徹だが、一方で映画音楽、歌曲、合唱曲、ポップス、ジャズなどを分け隔てなく愛し、多くの人の心に残る美しいメロディを生み出した作曲家だった」と語っている。そんな武満の多面性、大衆へと「開かれた」音楽性をも本公演では存分に味わえるのではないだろうか。

 それは、集結アーティストの顔ぶれを見てもわかる。俳優・歌手の生田絵梨花、ギタリストの Ichika Nito、くるりの岸田繁、フォークロックバンド「ROTH BART BARON」の三船雅也、コーラスグループのThe Voices of Japanという、なかなか他ではお目にかかれない多彩さだ。もちろん、音楽監督の水野蒼生もそこに含まれる。いったい彼らが武満の作品の中に何を見出し、どんな刺激を受けてそれを自身の音楽へと昇華していくのか。それを想像すると、今からドキドキしてくる。

生田絵梨花 / Ichika Nito
岸田繁(くるり) / 三船雅也
The Voices of Japan

 没後、武満徹の名前は音楽史の1ページに刻まれた。しかし、彼の音楽は決して「過去の遺産」ではない。いまを生きるアーティストたちの手によって、いまを生きる「武満徹」が現れる。その瞬間を、ひとりでも多くの人と共有したいと強く思う。

 

NHK音楽祭関連企画
武満徹没後30年「ASOBIBA TAKEMITSU」
~まだ知らない、武満徹。~

 
2026.10/26(月)19:30 NHKホール
 
出演/生田絵梨花(俳優・歌手)、Ichika Nito(ギタリスト)、岸田繁(くるり)、The Voices of Japan(コーラスグループ)、水野蒼生(クラシカルDJ・作曲家・指揮者)、三船雅也(ROTH BART BARON)
演奏/水野電氣交響楽団
進行・朗読/坂口涼太郎(俳優)
音楽監督/水野蒼生
演出/小栗了
 
曲目/小さな空、死んだ男の残したものは、めぐり逢い、翼、波の盆 ほか
※武満作品をもとに、一部楽曲の断片引用・再構成を含む演出を予定しています。
 
問:ハローダイヤル050-5541-8600
https://asobibatakemitsu.jp