マエストロ・ムーティ 若い音楽家たちへの情熱(1)

 10月に開幕するウィーン国立歌劇場日本公演で《フィガロの結婚》の指揮をとるリッカルド・ムーティの近況が届きました!
 マエストロが毎夏、心身ともに力を注ぐラヴェンナ・フェスティバルの模様やマエストロ自身の思いなど、自伝の翻訳を手がけるほか、マエストロとは長年親交をもつ田口道子さんによるレポートを2回に分けてご紹介します。

 2016年7月3日イタリアのアドリア海沿岸の町ラヴェンナで毎年開催されるラヴェンナフェスティヴァルの中でも特に重要な催しである「友情の道」のコンサートが本番を迎えた。「友情の道」は戦争やテロまたは地震や災害などで苦しむ人々の心を音楽で癒そうとの願いから始まった。毎年どこかの町と合同で演奏して音楽を平和のシンボルとしようという趣旨である。20周年を迎えた今年は日本とイタリアの国交樹立150年を記念して、日本の若手トップ奏者とケルビーニ管との合同オーケストラによるコンサートが行われた。友好関係にある日本とイタリアが音楽によってより深く結ばれるようにとの願いが込められたコンサートである。

リッカルド・ムーティ 2016年7月3日ラヴェンナ・フェスティバルの「友情の道」コンサートにて Photo by Silvia Lelli

リッカルド・ムーティ
2016年7月3日ラヴェンナ・フェスティバルの「友情の道」コンサートにて
Photo by Silvia Lelli

4000人の客席が埋め尽くされた「友情の道」コンサート Photo by Silvia Lelli

4000人の客席が埋め尽くされた「友情の道」コンサート
Photo by Silvia Lelli

 今年3月に東京文化会館と東京芸術劇場で東京・春・音楽祭の開幕を飾ったプログラムが今回はイタリアで演奏されたのである。マエストロ・ムーティが創設し、心血を注いで育成しているケルビーニ管は本格的な演奏活動を始めて今年で10年になる。日本からは40名の奏者が参加して日伊合同オーケストラが編成され、国交樹立150年を祝うにふさわしいコンサートが実現した。
 ところが、コンサートの数日前にバングラデシュでテロによる攻撃が起こり、多くの犠牲者が出た。コンサートに先立ってムーティは「ここで日本とイタリアの若者が国境を越えて、音楽を通して友情の絆を深めている時に、奇しくも特に多くの日本人とイタリア人がテロの犠牲になりました。テロや犯罪は無知から生まれます。無知と戦うことができるのは文化しかありません」と語り、犠牲者を追悼して黙祷が捧げられた。
 その後、日本とイタリアの国歌が斉唱された。舞台上の約90名のオーケストラ奏者、150名の合唱、40名の児童合唱による日本国歌「君が代」はとても好評だった。ムーティにとって初演奏のため、私は楽屋で何度も歌わされ、歌詞の読み方や意味を説明することになって汗をかいたが、イタリアの威勢の良い国歌と全く雰囲気の違う「君が代」はイタリア人から「重厚で厳粛」、「気品に満ちている」などなど大いに賞賛されたのである。
 いよいよ始まったコンサートの第一部はヴェルディのオペラ作品から序曲、アリア、合唱が演奏された。この日のムーティの気魄は格別だった。全身全霊で若い奏者たちをヴェルディの世界に引き込もうとしているかのようだった。普段は屋内総合競技場である施設に舞台と客席を設置した会場は4000人の観客で埋め尽くされていた。奏者も観客もまるで魔法にかかったかのように演奏に集中し、夢のようなひと時を過ごすことができた。
日本とイタリアの国交樹立150年記念コンサート。舞台上には日本の若手トップ奏者とケルビーニ管との合同オーケストラ約90名、合唱150名、児童合唱40名が並んだ。 Photo by Silvia Lelli

日本とイタリアの国交樹立150年記念コンサート。舞台上には日本の若手トップ奏者とケルビーニ管との合同オーケストラ約90名、合唱150名、児童合唱40名が並んだ。
Photo by Silvia Lelli

 さて、2016年春の叙勲でマエストロ・ムーティは日本政府から旭日重光章を受けた。長年にわたる音楽文化への貢献を称えられたわけであるが、1975年にウィーン・フィルと初来日して以来25回の来日で150回ものコンサートを指揮していることに改めて驚いた。「日本の聴衆は世界中で一番素晴らしい!日本で演奏できることは大きな喜び」とマエストロはいつもおっしゃる。
在イタリア日本国大使館の梅本和義全権大使より、勲章を受け取るマエストロ。 Photo by Silvia Lelli

在イタリア日本国大使館の梅本和義全権大使より、勲章を受け取るマエストロ。
Photo by Silvia Lelli

 勲章は皇居において総理大臣から授与されるのだが、ムーティはシカゴ響の本番のために日程を調整することができず来日が不可能だったため、コンサートの第二部の始めに伝達式が行われ、在イタリア日本国大使館の梅本和義全権大使からマエストロに勲章が手渡された。マエストロは「何よりもまず私を育ててくれた素晴らしい恩師たちに感謝の気持ちを捧げたいと思います。そして喜びはここにいる若い音楽家たちと分かち合いたいです」と挨拶した。
文:田口道子(在ミラノ、演出家)

■《フィガロの結婚》
作曲:W.A.モーツァルト
演出:ジャン=ピエール・ポネル
指揮:リッカルド・ムーティ

■公演日程
11月10日(木) 5:00p.m.
11月13日(日) 3:00p.m.
11月15日(火) 3:00p.m. 
会場:神奈川県民ホール

■予定される主な出演
アルマヴィーヴァ伯爵:イルデブランド・ダルカンジェロ
伯爵夫人:エレオノーラ・ブラット
フィガロ:アレッサンドロ・ルオンゴ
スザンナ:ローザ・フェオーラ
ケルビーノ:マルガリータ・グリシュコヴァ

*表記のキャストは2016年3月22日現在の予定です。

■入場料(税込)
S=¥65,000 A=¥60,000 B=¥54,000 C=¥49,000 D=¥33,000 E=¥25,000 F=¥17,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000


ウィーン国立歌劇場2016年日本公演公式HP
http://www.wien2016.jp/

【チケット発売情報】
●全公演のS〜D券
第2次発売
9月3日(土) 10:00より
NBSチケットセンター:03-3791-8888