演出家スヴェン=エリック・ベヒトルフ オペラ《ナクソス島のアリアドネ》を語る(1)

 演出家スヴェン=エリック・ベヒトルフは、2012年夏のザルツブルク音楽祭において、1912年の初演版に基づくプロダクションをつくりました。4か月後の12月、ウィーン国立歌劇場でのオペラ《ナクソス島のアリアドネ》が新演出初演を迎えます。
 ウィーン国立歌劇場のプログラムに掲載されたインタビューでは、自身が俳優であり演出家であるベヒトルフの、この作品への視点が語られています。ここでは一部抜粋を2回に分けてご紹介します。
(ウィーン国立歌劇場プログラム誌より。聞き手:オリヴァー・ラング)

演出家スヴェン=エリック・ベヒトルフ Photo:Salzburger Festspiele / Luigi Caputo

演出家スヴェン=エリック・ベヒトルフ
Photo:Salzburger Festspiele / Luigi Caputo


《ナクソス島のアリアドネ》において、
異なる二つの部分を衝突させないのは怠惰ということになります

――《ナクソス島のアリアドネ》の二つのヴァージョン(1912年にシュトゥットガルトで初演された初演版と、1916年にウィーン宮廷歌劇場で初演された改訂版)は、どの程度互いに異なっているのでしょうか?
ベヒトルフ:二つのヴァージョンは類似点が多くありますが、それでもやはり、たいへん異なっています。二人の別々の、しかしそれぞれが非常に魅力的な姉妹のようなものです。
オペラ《ナクソス島のアリアドネ》は少しオブジェのようなところのある作品です。改訂作業が行われ続けたことにより、ドラマトゥルギー(作劇法)は首尾一貫していません。とりわけ1916年版が少々ゆがんで組み立てられていることを、しばしば私は感じざるをえません。 どのように扱うべきなのかを、じっくりと考えてみなければなりません。初演から100年を経過した現在でも、よくよく考えてみなければならないのです。


――あなたのおっしゃる「ドラマトゥルギー上の一貫性のなさ」とは、作品が異なる二つの部分(第一部「序景」と第二部「オペラ」)に分けられていることに由来するのでしょうか?

ベヒトルフ:まさしくそのとおり。序景とオペラが、互いに首尾一貫したものとして織り合わされてはいないのですから。観客が「いったいどうなるのだ?」と聞きたくなるのも当然です。観客は間違った手がかりにおびき寄せられます。第二部の舞台上では、「オペラ・セリア」と「オペラ・ブッファ」両方の要素が角つき合せることでカオスが繰り広げられるものだと思い込んでしまうわけです。しかし実際にはそういうことは起こりません。たしかに道化じみた始まり方をしますが、歌姫(ディーヴァ)の虚栄心、芸術家と依頼人の思いあがりという書き割りの向こう側を一瞥すれば、このように起こりうる実り多い対立が、ドラマトゥルギー的にも音楽的に貫かれるかわりに、アリアドネの抱える問題が前面に押し出されてきます。


――あなたはこの二つの世界:第一部と第二部を、どの程度お互いに接触させるのですか?

ベヒトルフ:私はより多くの繋がりを作り出すようにして、オペラの部分を少しだけ脅かしてみたいと思うのです。この作品本来のウィットによって引き出された試みに他なりません。そうするべきなのです。まじめなものとその反対にあるものを上演のなかで衝突させないとすれば、それは怠惰ということになります……。

その(2)につづく

★NBSのウィーン国立歌劇場公式ホームページでは、音楽評論家・林田直樹氏による《ナクソス島のアリアドネ》聴きどころをご紹介しています。
“演劇好きの大人の女性にこそ知って欲しい、
《ばらの騎士》のさらにその先の世界”は下記より。

http://www.nbs.or.jp/blog/wien2016/info/2016-13.html


《ナクソス島のアリアドネ》
作曲:R.シュトラウス
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
指揮:マレク・ヤノフスキ

■公演日程
10月25日(火) 7:00p.m.
10月28日(金) 3:00p.m.
10月30日(日) 3:00p.m.
会場:東京文化会館

■予定される主な出演
プリマドンナ/アリアドネ:グン=ブリット・バークミン
ツェルビネッタ:ダニエラ・ファリー
作曲家:ヴェッセリーナ・カサロヴァ
テノール:バッカス:ヨハン・ボータ

*表記のキャストは2016年4月8日現在の予定です。

■入場料(税込)
S=¥63,000 A=¥58,000 B=¥53,000 C=¥48,000 D=¥32,000 E=¥25,000 F=¥17,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000

●全公演のS〜D券
6月4日(土) 10:00より一斉発売開始
NBSチケットセンター:03-3791-8888

ウィーン国立歌劇場2016年日本公演公式HP
http://www.wien2016.jp/