演出家スヴェン=エリック・ベヒトルフが語る《ナクソス島のアリアドネ》。2回目は、作品の本質への視点がうかがわれる言葉をご紹介します。
(ウィーン国立歌劇場プログラム誌より。 聞き手:オリヴァー・ラング)
《ナクソス島のアリアドネ》のテーマは変容
そして変容は芸術や私生活の硬直化を解消するものです
――《ナクソス島のアリアドネ》は変容というテーマで満たされていますね……。
ベヒトルフ:ホーフマンスタールは賢明にも、リヒャルト・シュトラウスに書いています。人生は私たちに、私たちが変化することを強制しますが、私たちがかつて何者であったかを思い出すための記憶は残されます。過去を承認しながら、つねに新しい人生の局面を開いていくということは、私たちが直面している課題です。《アリアドネ》は悲しみにくれる未亡人、あるいは家出人と浮気者より以上のものです。たいだいにおいて変容とは、芸術や私生活の硬直化を解消するためのものです。この挑発により、誰が年寄りなのかがわかるのです。
――《ナクソス島のアリアドネ》はいうまでもなく演劇(テアーター)にむけたオマージュです。しかし、後に作曲された《カプリッチョ》の方がよりはっきりと趣向をあらわしているように見えます。《アリアドネ》は演劇についての演劇といえるのでしょうか?
ベヒトルフ:《アリアドネ》はそうでありつつ、それを超えた作品です! 私たちがリアリティと呼ぶのものとは何かについて、演劇はその存在意義を見せることを義務付けられてきました。私たちが劇場や映画館を訪れるとき、私たちはそこで起こることが「本物」ではないことを知っています。それでも私たちの感情移入や、あるいは鏡映神経細胞のようなものに何かをもたらします。少なくともその瞬間は、リアリティが存在しているわけです。こうしたプロセスに関しては深遠な考察を必要とします……。
――作曲家は芸術の聖性という信念を有しています。芸術家生活を通じて、そうした信念はどの程度失われるものなのでしょうか?
ベヒトルフ:人間には願望が必要です。そして、こうした願望は情熱をともないます。ひとは演劇に無関心でいることは難しいのかもしれません。ブレヒトがあるとき言いました。「気難しい男には、まず《ヴェニスの商人》に興味を持たせる必要がある。」そのとおりなのです! ひと晩の上演は、願望を超える何ものかを生まなければなりません。演劇は変容をもたらすものでなければならないのです。そこでひとは独善的に窮屈に考えるのでなく! 演劇が成功するとしたら、一律的な排他主義からではなく、寛容さと矛盾によってなのです。人生もまったく変わりないではありませんか。
★NBSのウィーン国立歌劇場公式ホームページでは、音楽評論家・林田直樹氏による《ナクソス島のアリアドネ》聴きどころをご紹介しています。
“演劇好きの大人の女性にこそ知って欲しい、
《ばらの騎士》のさらにその先の世界”は下記より。
http://www.nbs.or.jp/blog/wien2016/info/2016-13.html
《ナクソス島のアリアドネ》
作曲:R.シュトラウス
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
指揮:マレク・ヤノフスキ
■公演日程
10月25日(火) 7:00p.m.
10月28日(金) 3:00p.m.
10月30日(日) 3:00p.m.
会場:東京文化会館
■予定される主な出演
プリマドンナ/アリアドネ:グン=ブリット・バークミン
ツェルビネッタ:ダニエラ・ファリー
作曲家:ヴェッセリーナ・カサロヴァ
テノール:バッカス:ヨハン・ボータ
*表記のキャストは2016年4月8日現在の予定です。
■入場料(税込)
S=¥63,000 A=¥58,000 B=¥53,000 C=¥48,000 D=¥32,000 E=¥25,000 F=¥17,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000
●全公演のS〜D券
6月4日(土) 10:00より一斉発売開始
NBSチケットセンター:03-3791-8888
ウィーン国立歌劇場2016年日本公演公式HP
http://www.wien2016.jp/