モーツァルトがイタリア人の歌手に歌わせることを望んだ
田口道子氏により行われたリッカルド・ムーティのインタビューをご紹介する2回目は、歌手について。マエストロが歌手への厳しい目をもつことは知られていますが、何を大切にし、何を求めるのか、興味深い言葉が語られています。(インタビュー・文 田口道子 オペラ演出家)
◆今回のキャストは若手のイタリア人が起用されていますね。
ムーティ:若手といってもすでに国際的に活躍している将来有望な歌手たちが揃っています。エレオノーラ・ブラットはローマ歌劇場日本公演でも《シモン・ボッカネグラ》のアメリアを歌いましたが、最近は《ボエーム》のミミで絶賛されました。ローザ・フェオーラとアレッサンドロ・ルオンゴはラヴェンナ・フェスティバル出身ですがアメリカでも成功を収めています。イルデブランド・ダルカンジェロはもう若手というよりはキャリアを積んだ偉大な歌手の仲間入りをしているのではありませんか? ナショナリズムではありませんけれど、忘れてはならないのはモーツァルトがイタリア人の歌手に歌わせることを望んだということです。特にダ・ポンテの台本は、書かれた言葉の意味を奥深く理解できなければ理想の演奏にはなりませんから、きれいなイタリア語の発音ができても、ただ単に言葉の意味が分かっても、それだけでは十分ではないのです。もちろん、イタリア人でなくても勉強を積んで心底言葉の意味を理解することはできると思いますが、習得するには多くの時間を必要とします。今回、イタリア人のキャストで公演ができることを嬉しく思っています。
ムーティ:モーツァルトを歌うには演奏のスタイルを理解しなければなりません。これはなかなか難しいことです。モーツァルトは非常に人間的でグルックのように人生を遠くから眺めるのではなく、人生を内側から見ていたと思うのですが、その感情表現は厳格さをともなって演奏することが大切なのです。もちろん、それは硬くて冷たい表現とは違います。一時、モーツァルトの演奏は音をヴィブラートなしで保って、まるで汽笛やサイレンのような歌い方が正しいなどと言われた時期がありましたが、それは根拠のない解釈だと思います。モーツァルトがイタリア人歌手に歌わせたかったのも彼がナポリで、チマローザやパイジェッロなどナポリ楽派の音楽家の影響を受けたからでしょう。ナポリに行かなくても天才であったに違いないと思いますけれど、ナポリ楽派の作曲家たちとの交流があったからこそイタリア語に精通していたし、多くのオペラ作品を生み出したともいえるでしょう。忘れてならないのは、当時は北イタリア、特にミラノはオーストリアの支配下でしたし、オーストリアの女帝マリア・テレジアの娘マリア・カロリーナはナポリ王と結婚してナポリの女王でしたから、ナポリとウィーンはとても近い関係にあって多くのナポリ楽派の音楽家がウィーンで活躍していた時代だったということです。モーツァルトのスタイルとは、イタリアの情熱的な感情表現とアルプスを越えた向こう側の国の厳格さとのバランスの取れた演奏のことだと思います。
《フィガロの結婚》
作曲:W.A.モーツァルト
演出:ジャン=ピエール・ポネル
指揮:リッカルド・ムーティ
■公演日程
11月10日(木) 5:00p.m.
11月13日(日) 3:00p.m.
11月15日(火) 3:00p.m.
会場:神奈川県民ホール
■予定される主な出演
アルマヴィーヴァ伯爵:イルデブランド・ダルカンジェロ
伯爵夫人:エレオノーラ・ブラット
フィガロ:アレッサンドロ・ルオンゴ
スザンナ:ローザ・フェオーラ
ケルビーノ:マルガリータ・グリシュコヴァ
*表記のキャストは2016年4月8日現在の予定です。
■入場料(税込)
S=¥65,000 A=¥60,000 B=¥54,000 C=¥49,000 D=¥33,000 E=¥25,000 F=¥17,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000
ウィーン国立歌劇場2016年日本公演公式HP
http://www.wien2016.jp/
【チケット発売情報】
●2演目・3演目セット券 [S, A, B券]
NBS WEBチケット&電話受付
4月23日(土)10:00より
NBSチケットセンター:03-3791-8888
●全公演のS〜D券
一斉発売開始
6月4日(土) 10:00より