アダム・フィッシャー インタビュー(2)

 アダム・フィッシャーのインタビューを紹介する第2回目は、ウィーン国立歌劇場の上演がオーケストラの力に支えられた“贅沢なオペラ”であることや、大作《指環》の指揮への姿勢などが語られています。
(ウィーン国立歌劇場月刊広報誌より 聞き手:オリヴァー・ラング)

Photo:Wiener Staatsoper

Photo:Wiener Staatsoper

――私たちが好んでする質問をさせてください。指揮をしているときは「頭」と「おなか」のどちらが重要ですか? つまり、「知性」と「感情の高揚」のどちらが?

フィッシャー:
私見では「おなか」といいたいところですが、それだけではだめです。「おなか」が「頭」をおびやかすことはできません。指揮する場所ではつねに「おなか」からのきらびやかな響きを聴くことができます。私は「ここ」では、そうした贅沢にひたれるのです。

――「ここ」、つまりウィーン国立歌劇場のオーケストラが、そうした贅沢を可能にするということですね?


フィッシャー:
国立歌劇場のオーケストラには、オペラ演奏の偉大な伝統をみることができます。ウィーン国立歌劇場におけるオペラ上演は、それゆえにまったく信頼できるものです。この歌劇場とオーケストラのように、毎晩、程度の差はあれ信頼できる上演が可能な劇場ばかりではありません。

――《指環》の上演には16時間を要します。すでに経験をお持ちのあなたにとっても、この演奏にいどむのは、大変な仕事と受け止めていらっしゃいますか?

フィッシャー:
いいえ、私はこの作品をそんなに長いとは思っていません。もちろん、上演時間が短くても演奏が困難な偉大な作品もありますが。長くかかるオペラでは、全体をバランス良く行えるように気を配る必要があるのです。《ラインの黄金》の前にはトイレに行っておくべきですね。

――長い上演を指揮する場合、あなたは「頭」をうまく配分するのですか?

フィッシャー:
いいえ、残念ながら私はそうすることができないのです。私には少しだけ集中したり、エネルギーを配分することは不可能です。しかしながら、そうしたことは不必要でもあるのです。ワーグナーのすばらしいアイディアが、私の中にエネルギーを補給してくれるからです。私はブダペストで『指環』を4日間で演奏しました。演奏が終わったら死んでしまうかもしれないと心配しましたが、ご覧のとおりです。音楽が集中力とファンタジーを高め、あらゆる力を与えてくれるので、エネルギーを回復できるのです。《神々の黄昏》のあとで、もういちど『指環』全曲をはじめから指揮することができそうでした!

《ワルキューレ》 (ウィーン国立歌劇場公演より) Photo:Wiener Staatsoper / Michael Poehn

《ワルキューレ》
(ウィーン国立歌劇場公演より)
Photo:Wiener Staatsoper / Michael Poehn

――指揮者の仕事の最中に、エネルギーを節約できる部分はあるのでしょうか? 休憩できる箇所などがありますか?

フィッシャー:
私の同僚がそういった箇所について言及しているのは知っています。《ラインの黄金》を例にとり、指揮者が休憩をとれる箇所をあげてみましょう。それはアルベリヒが「おまえたち、何をまごまごしているのだ」という部分です。ワーグナーはここにフェルマータを書いています。指揮者は腕を振るまでに8秒間の休憩をとれます。私はいつも9秒間の休憩になるように、アルベリヒにできるだけフェルマータを引き伸ばしてもらいます(笑)。以前、私はこの箇所でいつも、ブドウ糖の粒を口にほうり込んでいました。

――ワーグナーはオーケストラにもそうしたブドウ糖補給の休憩を認めていますか?

フィッシャー:
指揮者に対してよりも、はっきりと認めていますよ。楽譜を読み込めば、ワーグナーが常に実際的に楽器奏者たちには大きな休憩時間を与えていることが見てとれます。例えば「死の告知」ではヴァイオリン奏者たちが休めますし、その他にもいろいろあります。私はワーグナーがまったく意識的にそのような休憩箇所をもうけたのだと考えています。残念ながら指揮者が休憩できる箇所は、16時間のなかでほんのわずかしかありませんが。


R.ワーグナー作曲
《ワルキューレ》
指揮:アダム・フィッシャー
演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ
11月 6日(日) 3:00p.m.
11月 9日(水) 3:00p.m.
11月12日(土) 3:00p.m.
会場:東京文化会館

■予定される主な出演
ジークムント:クリストファー・ヴェントリス
ジークリンデ:ペトラ・ラング
ブリュンヒルデ:ニーナ・シュテンメ
ヴォータン:トマス・コニエチュニー
フリッカ:ミヒャエラ・シュースター
*表記のキャストは2016年4月8日現在の予定です。

■入場料(税込)
S=¥67,000 A=¥61,000 B=¥54,000 C=¥49,000 D=¥33,000 E=¥25,000 F=¥17,000
エコノミー券=¥13,000 学生券=¥8,000

ウィーン国立歌劇場2016年日本公演公式HP
http://www.wien2016.jp/

●2演目・3演目セット券 [S, A, B券] NBS WEBチケット&電話受付
4月23日(土)10:00より
NBSチケットセンター:03-3791-8888


●全公演のS〜D券
一斉発売開始
6月4日(土) 10:00より