エルガー作品にようこそ

エルガーが初めて音楽を学ぶ場となったと語ったウスター大聖堂

 一般にエドワード・エルガーといえば、「威風堂々」の作曲家というイメージが根強いように思うが、それは日本に限らず、英国外の多くの人々が抱いているイメージなのかもしれない。おそらくそれはロンドンの夏の音楽の祭典、プロムスのラスト・ナイトで、この曲に合わせてユニオン・ジャック(英国旗)を振る人々の姿によって強まったのでは、と推察される。
 実際にはエルガーは、オペラこそないものの、交響曲やオラトリオといった大作から、室内楽曲、歌曲、器楽の小品まで幅広いジャンルに作品を残した。2曲の交響曲(もう1曲、作曲家アントニー・ペインによって補筆完成されたものがある)、クライスラーが初演したヴァイオリン協奏曲や晩年の傑作であるチェロ協奏曲、〈ニムロッド〉でおなじみの「エニグマ変奏曲」や序曲「コケイン」などは、母国では今も頻繁に取り上げられている。ちなみに、英国人にもっとも人気の高いのは「エニグマ変奏曲」で、英国のラジオ局Classic FMが毎年行なうクラシック音楽の人気投票でエルガーの作品中つねに最高位を占める(2018年度は5位)。
 英国に住んでいて実感するのは、エルガーの音楽の原点は生まれ故郷のウスター近郊の風景と強く結びついているということだ。ウェールズにほど近いモルヴァーン丘陵の見える田園地帯を彼は愛し、人生の大半をここで過ごした。この原風景は音楽家としての彼の形成に大きな影響を与え、たとえば交響曲第1番やチェロ協奏曲の起伏のなだらかで雄大な旋律の中にも感じ取ることができる。
 またウスターは、由緒ある合唱祭のスリー・クワイヤーズ・フェスティバル(Three Choirs Festival)の開催地としても知られる。父親が同祭のオーケストラで弾いていたことから、エルガーは幼少よりヘンデルの「メサイア」やベートーヴェンのミサ曲など合唱の定番レパートリーに親しみ、やがて自身もオーケストラに加わった。こうした体験がのちにエルガーをカンタータやオラトリオなどの声楽作品に向かわせたのだろう。ちょうど40代半ばの脂が乗りきった時期に「ゲロンティアスの夢」「使徒たち」「神の国」というオラトリオ三部作を相次いで発表し、国際的な作曲家としての地位を確かなものにした。
 「ゲロンティアスの夢」は、エルガーが親しんできたヘンデルやメンデルスゾーン、その後のロマン派のオラトリオの伝統に基づきながらも、同時に自身のカトリック教徒としての個人的な思いが込められた、ひとりの人間の人生最期のドラマである。英国の合唱の伝統とヨーロッパの後期ロマン派の管弦楽が結びついた独自の語法を、エルガーはこの作品で切り開いたのであった。
文:後藤菜穂子(音楽ライター、在ロンドン)


【公演情報】

第662回定期演奏会
2018.7/14(土)18:00 サントリーホール

第66回川崎定期演奏会
2018.7/15(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

●曲目
エルガー:オラトリオ ゲロンティアスの夢 Op.38

●出演
ジョナサン・ノット(指揮)
マクシミリアン・シュミット(テノール)
サーシャ・クック(メゾソプラノ)
クリストファー・モルトマン(バリトン)

合唱:東響コーラス
合唱指揮:冨平恭平

●チケット
サントリーホール

S席 A席 B席 C席
¥10,000 ¥8,000 ¥6,000 売切

ミューザ川崎シンフォニーホール

S席 A席 B席 C席
¥10,000 ¥8,000 ¥5,000 ¥4,000

 

問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター 044-520-1511(平日10:00〜18:00)
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