サーシャ・クック(メゾソプラノ・天使役)

ーーエルガーの《ゲロンティアスの夢》を歌われた、あるいは聴かれた経験はありますか?もし歌った(聴かれた)ことがあればその時の印象をお話しください。体験された指揮者、共演者(出演者)もお教えください。

 この作品はイギリスで1回、アメリカで1回の計2回のプロダクションに参加しています。両方とも私以外のソリストと指揮者はイギリス人で、同プロダクションで何回か歌いました。演奏するたびに、演奏に参加した指揮者や共演者のこの作品に対する評価や理解が私にインスピレーションを与えてくれました。
 最初この曲を聴いたときの印象は、そのパワフルさと精神性の高さです。本当に衝撃的でした。「ゲロンティアス」を生演奏で聴く体験は、録音を聴くだけとは比べものになりません。この作品を最初から最後まで聴く“旅”は、生演奏でしか経験することができないパワフルなものです。二度とも私はそれを感じました。最初に「ゲロンティアス」を歌ったのは、エドワード・ガードナー指揮シアトル交響楽団、2回目は、マーク・エルダー指揮ハレ管弦楽団(マンチェスター)でした。

(C)Dario Acosta

ーー《ゲロンティアスの夢》はエルガーの「3大オラトリオ」のひとつとして知られていますが、この作品の魅力はどのようなところにあるのでしょうか?

 私はエルガーの音楽は素晴らしいと思いますし、すべての作品が好きです。エルガー作品は言葉や形容詞で表現したほうがより理解しやすいクオリティがあります。エルガーの音楽には、美や畏敬と畏怖の念、すばらしい合唱の書法、抒情的なメロディ、ドラマ性があり、そして「ゲロンティアス」は、演劇的、オペラティックな様式をもつ作品です。

(C)Dario Acosta

ーーあなたの母国において、《ゲロンティアスの夢》は広く知られた作品でしょうか。それとも現在でも知られざる作品なのでしょうか?

 残念なことに、アメリカではあまり知られていません。シアトル公演の際の出来事です。ホテルのエレベーター内で、「ゲロンティアス」を聴くためにわざわざニューヨークから来たカップルに偶然にもお会いしたのです。彼らは「この作品は本当に演奏されないんだ」と言っていましたからね。
 このシアトル公演の前にアメリカ国内で「ゲロンティアス」が演奏されたときいているのは、その約10年前、ニューヨーク・フィッシャーセンターでの「Bard Music Festival」でのみです。イギリスでの「ゲロンティアス」のポジションは、アメリカでの「メサイア」のようなものですが、「メサイア」よりも演奏が難しいので、頻繁に演奏されないのかもしれません。

ーーエルガーの《ゲロンティアスの夢》に、リヒャルト・ワーグナーの作品との類似性を指摘する向きがありますが、歌う側としてどうお感じになりますか?

 「ゲロンティアス」とワーグナー作品には、エルガーの音楽のもつ革命的なアプローチとスタイルという点(有機的な書法、雰囲気の描写なども)において、つながりがあるのかもしせん。
 また、「ゲロンティアス」のもつオペラティックな要素はワーグナー的でもあります。
音楽自体が物語を伝えていて、まるで聴衆は劇を観ているかのような感覚になるあたりもそうですね。ライトモティーフが繰り返し使われる点でも似ています。私にとっては二人とも、ノスタルジックでセンチメンタルな作曲家のように感じられます。
 「ゲロンティアス」はオーケストラの編成も大きく、金管セクションは独自の役割を担っていますし、合唱団のレベルも高くなくてはいけません。

ーーエルガーと同じく英国出身のマエストロ、ジョナサン・ノット氏とこの作品を共演するにあたり、抱負をお聞かせください。

 ノット氏は音楽から様々な色彩を引き出すことのできる素晴らしいマエストロです。「ゲロンティアス」はカラフルな作品ですから、良い演奏になることは間違いないでしょう。ノット氏はこの作品を小さい頃からよくご存じだと聞いています。このプロダクションを経験できる東京のお客様は幸運だと思います。異文化との交流こそが、音楽の一番優れた点だと思うのです。


【Profile】
サーシャ・クック(メゾ・ソプラノ/天使)

アメリカ出身。ライス大学とジュリアード音楽院で学ぶ。2011年アダムズ《ドクター・アトミック》CD(アラン・ギルバート指揮)でグラミー賞を受賞。世界中の主要歌劇場や世界的指揮者、オーケストラからのオファーが後を絶たない歌手の一人。2017/18年シーズンは、タイトルロールを務めたイングリッシュ・ナショナル・オペラでのニコ・マーリー作曲《マーニー》の世界初演が特筆される。ティルソン=トーマス指揮サンフランシスコ響とマーラー《交響曲第3番》、ヴァンスカ指揮でマーラー《交響曲2番》、エド・デ・ワールト指揮オランダ放送フィルとバーンスタイン《エレミア》等オーケストラとの共演も多数。ウルバンスキ、ハイティンク、ネゼ=セガン、デュダメル、ギルバート等の指揮者等と共演し、シカゴ響、クリーヴランド響、ルツェルン音楽祭等へ出演、メトロポリタン歌劇場、サンフランシスコ歌劇場等でも活躍、高い評価を得ている。東京交響楽団へは2014年6月定期でジョナサン・ノット指揮、ベルリオーズ《夏の夜》へ出演し、その上品かつ深い歌唱が絶賛された。


【公演情報】

第662回定期演奏会
2018.7/14(土)18:00 サントリーホール

第66回川崎定期演奏会
2018.7/15(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール

●曲目
エルガー:オラトリオ ゲロンティアスの夢 Op.38

●出演
ジョナサン・ノット(指揮)
マクシミリアン・シュミット(テノール)
サーシャ・クック(メゾソプラノ)
クリストファー・モルトマン(バリトン)

合唱:東響コーラス
合唱指揮:冨平恭平

●チケット
サントリーホール

S席 A席 B席 C席
¥10,000 ¥8,000 ¥6,000 売切

ミューザ川崎シンフォニーホール

S席 A席 B席 C席
¥10,000 ¥8,000 ¥5,000 ¥4,000

 

問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター 044-520-1511(平日10:00〜18:00)
TOKYO SYMPHONYオンラインチケット http://tokyosymphony.jp