オラトリオ《ゲロンティアスの夢》は、19世紀後半から20世紀にかけてのイギリスを代表する作曲家、エドワ ード・エルガー(1857〜1934)がのこした、大規模な宗教合唱曲。ジョン・ヘンリー・ニューマン枢機卿(1801〜1890)の長編詩をもとにしている。
日本国内ではこれまで数えるほどしか上演されてこなかったが、イギリスではヘンデルの《メサイア》やメンデルスゾーンの《エリア》とならぶ人気を誇る作品だ。
《ゲロンティアスの夢》の成功をうけてエルガーは、それに続くオラトリオ《使徒たち》《神の国》《最後の審判》をまとめて、ワーグナーの《ニーベルングの指環》四部作と同様の上演を模索していた。当時のヨーロッパの音楽がワーグナーの影響下にあったなかで、エルガーもその例にもれず、本作にもワーグナーの影響が色濃くみてとれる。
日本では、1975年9月19日東京厚生年金会館で山口貴(指揮)日本フィルハーモニー交響楽団とフィルハーモニー合唱団が初演。東京交響楽団は、2005年3月5日東京芸術劇場シリーズ第79回演奏会で大友直人の指揮で上演している*。国内では今回で6回目の上演となる。
全体は2部構成。
第1部:(約35分)
約10分間の「前奏曲」に続き、死を前にしたゲロンティアス(テノール)が、審判の日を前にした覚悟を切々と歌う。自らの魂を神へ委ねようとするゲロンティアスを司祭(バリトン)が「創造主である全能の父の名の下に、イエス・キリストの名の下に、この世から旅立ちなさい」と、力強く鼓舞する。友人たちも加わり、ゲロンティアスは祝福されながら、意気揚々と神の国へと昇っていく。
第2部:(約60分)
ゲロンティアスの魂(テノール)の前に守護天使(メゾ・ソプラノ)が現れ、主の国へ連れて行こうとする。しかし、魂は天使へ次々と質問を投げかける。「神のもとへ行くのを邪魔するものはなんですか?」すると、天使が「ひと筋の光が進むべき道を告げていますよ」と魂を慰める。そこに悪魔たちがあらわれ、地獄に連れ去ろうとするが、審判を受ける館の門をくぐりぬけたゲロンティアスの魂は、天上の世界から響いてくる清らかな歌に導かれ、美しい浄化をとげる。
【配役】
ゲロンティアス(テノール)
●第1部
司祭(バリトン)
友人たち(混声合唱)
●第2部
天使(メゾソプラノ)
苦悩の天使(バリトン)
友人たち、悪魔たち、精霊たち、煉獄の魂たち、天上の合唱、地上の声(混声合唱)
神(管弦楽)
作曲年代:1900年
初演:1900年10月3日、ハンス・リヒター指揮、バーミンガム音楽祭
楽器編成:フルート2(ピッコロ1)、オーボエ2(イングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ3、バス・ドラム、シンバル、トライアングル、タムタム、ベル、グロッケンシュピールな、ハープ2、オルガン、弦楽5部。
*情報提供:日本エルガー協会 代表 水越健一