英国ロイヤル・オペラ日本公演の2つ目の演目《ドン・ジョヴァンニ》も初日を開けました。
プロジェクション・マッピングと仕掛けがいっぱいの巨大装置によって、次々と場面が移っていくのがこのプロダクションの魅力です。でも、「テクノロジーは登場人物のキャラクターを浮き彫りにする支えでしかありません」と語る演出家カスパー・ホルテンの言葉通り、この上演の魅力のカギを握るのは歌手たちです。
レポレロ役のアレックス・エスポージトの軽妙さをはじめ、艶っぽい声と颯爽とした振る舞いが見事なイルデブランド・ダルカンジェロ演じるドン・ジョヴァンニ、自分のなかの矛盾する思いを毅然と歌い演じるジョイス・ディドナートのドンナ・エルヴィーラ、美しく品性をもった声で愛と哀しみを表すアルビナ・シャギムラトヴァのドンナ・アンナ、この愛する人の苦しみを自分のものとして苦悩するローランド・ヴィラゾンのドン・オッターヴィオ、そして、ツェルリーナ役のユリア・レージネヴァには、小さな体のどこからこんな声量が?!と誰もが驚きを覚えたようです。
ツェルリーナの夫マゼット役のマシュー・ローズは、元来大柄ですが、レージネヴァと並ぶと大男のよう。次々と繰り出すソロばかりでなく、緊張感たっぷりのアンサンブルのこのうえない美しさも、やはり一人ひとりの歌手の高い技量によるところ。高レヴェルな歌手が揃った《ドン・ジョヴァンニ》です。
また、一般的に《ドン・ジョヴァンニ》では、いわゆるフィナーレの“地獄落ち”に、大掛かりな美術効果などが用いられることがありますが、このプロダクションでは、ドン・ジョヴァンニは最後まで一人で舞台に残されます。演出家のカスパー・ホルテンは、ドン・ジョヴァンニにとっての最大の罰を孤独と考えることから、このような演出にしたそうです。ドン・ジョヴァンニと騎士長の亡霊が対峙する場面で、どんどん緊張感を増していくオーケストラの響きが、ストンと現実に切り替わる・・。言葉だけでは想像しにくいかもしれませんが、この場面のパッパーノによる緊迫したオーケストラの音楽づくりは、この演出をしっかりと納得させるものとなっています。
公演は9月17日(木)、20日(日)の2回行われます。