英国ロイヤル・オペラ日本公演、本日開幕
日本公演開幕前日の9月11日、英国ロイヤル・オペラ(ROH)の記者会見が開催されました。
総支配人アレックス・ベアード、音楽監督アントニオ・パッパーノ、オペラ・ディレクターで演出家のカスパー・ホルテン、歌手は《マクベス》からはサイモン・キーンリサイドとリュドミラ・モナスティルスカ、《ドン・ジョヴァンニ》からはイルデブランド・ダルカンジェロ、ジョイス・ディドナート、ローランド・ヴィラゾンが出席。
パッパーノは「5年前の前回公演が昨日のことのように思える」と挨拶。今回の日本公演2作品については「ある程度歴史のあるプロダクションと新しいプロダクションを、ということにこだわり、《マクベス》と《ドン・ジョヴァンニ》を選びました。なんと言っても、キーンリサイドとモナスティルスカという強力な歌手を得た2011年にロンドンでの《マクベス》で、これは絶対に日本の皆様にも! と思いました」と語りました。
そのマクベス役キーンリサイドは、十代のときに、黒澤明がシェイクスピアの『マクベス』を原案にした映画を観て、深い感銘を受けたと言います。さらに興味深いのは、「マクベスとドン・ジョヴァンニには通じるものを感じる」という点。「己の確立ということです。神の決められた運命ではなく、自らの運命を自ら覚醒して切り開こうとした人間という意味で通じる部分があると思います。その末路がどうであったかはそれぞれですけれども。ですから私は、自分で自分の運命を切り開こうとした人間としてのマクベスを演じたいと思っています」と、静かな口調で深い思いを語りました。
では、ドン・ジョヴァンニ役のダルカンジェロは? 前日の夜までリハーサルだったこともあり、「まだ起きたばかりで頭が回っていないんです。コーヒー無しでうまく話せるかな」と、会場の笑いを誘いましたが、「私の役目はカスパー・ホルテンが考えたドン・ジョヴァンニを具現化すること。そのためには過去に演じてきたドン・ジョヴァンニを完全に消し去ることが必要です。簡単なことではありませんが、私の課題です」と、役作りについてはさすがに真摯。
ダルカンジェロに続いたドンナ・エルヴィーラ役のジョイス・ディドナートも、まず、「私はコーヒー3杯飲んで来たからちゃんと話せるわ」と会場をなごませた後、今回あらためて深く考えたことを話してくれました。
「私はアメリカからですが、イタリアから、ロシアから、メキシコから、と違った国々からの仲間が集まり、シェイクスピアというイギリスを代表する作家の作品に基づいたオペラが上演され、モーツァルトも歌われる、現代の人間が、現代のやり方でそれらを歌います。それは性や国、文化など、あらゆる異なるものを越えて一つに集まり、それを分かち合うということなのです。人類が持ち得る最高のものの一つがオペラなのだと思います。大きなクライシスが襲う現在の世の中で、オペラは一体何ができるのか、と自分に問いました。そして、本当の美の世界をみなさんと分かち合うことができること、異なるものを乗り越えてともに分かち合うことができることに、意義があるのではないかと、しみじみ思ったのです」
歌手陣では最後となったドン・オッターヴィオ役のローランド・ヴィラゾンは、「みんながすべてを言ってくれたから」とのことで、「今回のメンバーは“集るべくして集った”という気がしています」と喜びを表しました。
《ドン・ジョヴァンニ》の演出カスパー・ホルテンは、「ドン・ジョヴァンニとは一体何者なのか、そしてぞれぞれの人が何に魅せられているのか、ドン・ジョヴァンニの本質は何なのか、そういったものを新しい技術を使って表現したいと思いました。でも、この新しいテクノロジーというのは、ドラマあるいは歌手を支えるものに過ぎません。このキャラクターたちが、素晴らしい歌手によって真実味をもち、浮き彫りになることによって物語は展開するのです」と、歌手たちへの感謝の言葉とともに、自作を日本にもってこられたことの喜び、そして自信をうかがわせました。
「歌手やオーケストラ、合唱、そして関わるすべてのスタッフから多くのエネルギーをもらいます。ハードワークをこなしていくためのエネルギーです。素晴らしい仲間たちとなら、それができるのです!」
パッパーノの意欲溢れる言葉で、会見は終了となりました。
■英国ロイヤル・オペラ2015年来日公演《マクベス》