キリル・ペトレンコとは!?(1)

“クライバーに比肩する”と評される天才!

Photo:Joachim Baldauf

 キリル・ペトレンコ(1972年生)の名前がオペラ・ファンのあいだで最初にクローズアップされたのはいつだったか。ワーグナーの仮面をかぶったヴォータンを登場させるなど解釈とヴィジュアル面で注目を集めた、マイニンゲン歌劇場における《ニーベルングの指環》(2001年、演出:クリスティーネ・ミーリツ、舞台美術:アルフレート・フルドリチカ)を、当時ドイツで最年少の音楽総監督として指揮したときだろう。ミーリツはペトレンコの集中力にあふれた仕事によって上演が成功に導かれたことを感謝し、彼の輝かしい前途を予言していた。
 02年、ベルリン・コーミッシェ・オーパーに、ハリー・クプファーの後任として、アンドレアス・ホモキが首席演出家に就任するにあたり、ペトレンコを音楽総監督に招聘した。そしてスメタナ《売られた花嫁》の新演出で、コーミッシェ・オーパーの新しい時代の幕を開けたのである。以後、オペレッタからモーツァルト、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニ、リヒャルト・シュトラウスに加え、ロシア出身という持ち味を生かしたチャイコフスキーやヤナーチェク、ショスタコーヴィチの作品を指揮して、オールマイティなオペラ指揮者として活躍することになる。
 07年にペトレンコはコーミッシェ・オーパーを離れるが、同年「オーパンヴェルト」誌上で批評家たちの投票により、コーミッシェ・オーパーが年間最優秀オペラハウスに選ばれ、ペトレンコ自身も年間最優秀オペラ指揮者に選出された。彼の《ばらの騎士》をカルロス・クライバーに比肩するものと賞賛する批評があり、またコーミッシェ・オーパーにおける「ペトレンコ時代」を、1920年代のベルリン・クロール・オーパーにおけるオットー・クレンペラーの時代に匹敵するとした批評家もいた。
 その後しばらくペトレンコはフリーランスとして各地のオペラハウスに客演するのだが、2009年にはフランクフルト歌劇場におけるプフィッツナー《パレストリーナ》(演出:ハリー・クプファー。ライブCDが発売されている)等の成果で、ふたたび年間最優秀オペラ指揮者に選出される。アン・デア・ウィーン劇場でのヤナーチェク《カーチャ・カバノヴァー》(演出:K・ウォーナー)で共演した歌手のアニヤ・シリヤは、ペトレンコについて「非常に人間的には謙虚で親切でありつつ、容赦ない厳密さをオーケストラと合唱およびソリストに要求し、それを達成することができます。なぜならば誰もが彼のために最善をつくすことを望み、彼を失望させたくないと考えるからです」と、自分の長いキャリアで出会った指揮者のなかで、アンドレ・クリュイタンスとならぶ最高の存在と評価している。
文:寺倉正太郎(劇場ジャーナリスト)
*その(2)につづく

Photo:Wilfried Hösl

【公演日程】
バイエルン国立歌劇場日本公演

《タンホイザー》
作曲:R.ワーグナー
演出:ロメオ・カステルッチ
指揮:キリル・ペトレンコ
9月21日(木) 3:00p.m.
9月25日(月) 3:00p.m.
9月28日(木) 3:00p.m.
会場:NHKホール

■予定される主な出演
領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ

http://www.bayerische2017.jp/tannhauser/