“クライバーに比肩する”と評される天才!
02年、ベルリン・コーミッシェ・オーパーに、ハリー・クプファーの後任として、アンドレアス・ホモキが首席演出家に就任するにあたり、ペトレンコを音楽総監督に招聘した。そしてスメタナ《売られた花嫁》の新演出で、コーミッシェ・オーパーの新しい時代の幕を開けたのである。以後、オペレッタからモーツァルト、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニ、リヒャルト・シュトラウスに加え、ロシア出身という持ち味を生かしたチャイコフスキーやヤナーチェク、ショスタコーヴィチの作品を指揮して、オールマイティなオペラ指揮者として活躍することになる。
07年にペトレンコはコーミッシェ・オーパーを離れるが、同年「オーパンヴェルト」誌上で批評家たちの投票により、コーミッシェ・オーパーが年間最優秀オペラハウスに選ばれ、ペトレンコ自身も年間最優秀オペラ指揮者に選出された。彼の《ばらの騎士》をカルロス・クライバーに比肩するものと賞賛する批評があり、またコーミッシェ・オーパーにおける「ペトレンコ時代」を、1920年代のベルリン・クロール・オーパーにおけるオットー・クレンペラーの時代に匹敵するとした批評家もいた。
その後しばらくペトレンコはフリーランスとして各地のオペラハウスに客演するのだが、2009年にはフランクフルト歌劇場におけるプフィッツナー《パレストリーナ》(演出:ハリー・クプファー。ライブCDが発売されている)等の成果で、ふたたび年間最優秀オペラ指揮者に選出される。アン・デア・ウィーン劇場でのヤナーチェク《カーチャ・カバノヴァー》(演出:K・ウォーナー)で共演した歌手のアニヤ・シリヤは、ペトレンコについて「非常に人間的には謙虚で親切でありつつ、容赦ない厳密さをオーケストラと合唱およびソリストに要求し、それを達成することができます。なぜならば誰もが彼のために最善をつくすことを望み、彼を失望させたくないと考えるからです」と、自分の長いキャリアで出会った指揮者のなかで、アンドレ・クリュイタンスとならぶ最高の存在と評価している。
文:寺倉正太郎(劇場ジャーナリスト)
*その(2)につづく
【公演日程】
バイエルン国立歌劇場日本公演
《タンホイザー》
作曲:R.ワーグナー
演出:ロメオ・カステルッチ
指揮:キリル・ペトレンコ
9月21日(木) 3:00p.m.
9月25日(月) 3:00p.m.
9月28日(木) 3:00p.m.
会場:NHKホール
■予定される主な出演
領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ