演出家ロメオ・カステルッチの創作に迫る(2)

 初演に寄せて、カステルッチがこれまで手がけたオペラの数々に見られる演出意図や特徴紹介する記事からの紹介2回目は、彼の創作の起源がどこにあるのかがうかがわれる内容です。
(原文はバイエルン国立歌劇場より提供 文:レイリ・ダリオシュ) 

ロメオ・カステルッチ
Photo:Slava Filippov

 ロメオ・カステルッチは、ヨーロッパの演劇シーンをラディカルに変えた。この演出家・舞台美術家・衣装家が生み出すのは、圧倒的なイメージの演劇だ。それは、既存のテクストを書かれたままに再現することにはほとんど無関心だ。彼の創るシーンの数々は魅惑的で衝撃的だ。その狙いは、あらゆるイリュージョンを眼前に曝し出すことにある。

劇場の子供時代、子供時代の劇場
 ロメオ・カステルッチ演出のオペラ最新作は、アルテュール・オネゲル作曲の《火刑台上のジャンヌ・ダルク》(リヨン歌劇場)だ。この作品で、オルレアンのヨハンナ[ドイツで一般的なジャンヌ・ダルクの呼称]は、薪の山の上で目前の死を待つ。彼女の肉体を燃やし尽くすだろう炎が予期される中で、ジャンヌの脳裏には様々な記憶が無秩序にフラッシュバックする。性急に下された判決、コンピエーニュでの逮捕、ランスでのフランス王シャルル7世の戴冠、そしてとりわけ彼女自身の、故郷ドンレミで過ごした子供時代ーー彼女は若い羊使いで、自らに使命をささやく聖マルガリタと聖カタリナの声を聴いたのだった。
 剥き出しの舞台の上には、柱や薪の山はおろか、中世を思わせるものは何ひとつ見られない。大きな馬が一頭、横たわっているだけだ。その力強い筋肉は、ある種の敬意を払わせる、そう、沈黙することを求めているように見える。ずっと前に安楽死させられ、剥製にされた。幻想か現実かは、ジャンヌにとって問題ではない。馬はまだ息をしている。生きている。ジャンヌはこの動物の横に座って、か細い両腕を馬の首に絡ませる。重々しく、生成り色の、綿の入った布がずたずたになって天井から下がっている。舞台を囲むごつごつした素材の露骨さは、荒削りに仕上げられた加工の仕方と並んで、あの中世の聖史劇を思い起こさせている。この劇とともに、演劇はその最初の躊躇いがちな歩みを、あちこちの教会前広場で始めたのだった。だが、ロメオ・カステルッチと、1981年にソチエタス・ラファエロ・サンツィオを共同で結成した姉クラウディア・カステルッチの子供時代の経験も、ここである役割を演じている。ふたりがイタリアのエミーリア=ロマーニャ州で作った、最初の演劇上演ごっこの数々ですでに、動物は舞台上で重要な役割を担っていた。そしてこの子供時代の劇の数々が、彼らのまったくの無邪気さにおいて、ソチエタス・ラファエロ・サンツィオのラディカルな演劇言語の基礎ーーすなわちラファエロへのオマージュ、および彼の絵画の数々の、受苦を通じて描かれる優美さ――を形成していると言える。

その(3)に続く

◾️ロメオ・カステルッチ プロフィール
チェゼーナに生まれ、農学を修めたのち、ボローニャ芸術大学で舞台美術と絵画を学ぶ。1981年、クラウディア・カステルッチ、キアラ・グイディと劇団ソチエタス・ラファエロ・サンツィオを結成、創立時より芸術監督を務める。代表作に『オレステイア』、『ジュリオ・チェザーレ』、『神曲 地獄篇』、『神の子の顔の概念について』、『オルフェオとエウリディーチェ』、『春の祭典』、『いずれとも知れず』がある。演出家および舞台美術家としての活動の傍ら、演劇理論についての著作でも知られる。《タンホイザー》は彼のバイエルン国立歌劇場での初演出。


【公演日程】
バイエルン国立歌劇場日本公演
《タンホイザー》
作曲:R.ワーグナー
演出:ロメオ・カステルッチ
指揮:キリル・ペトレンコ
9月21日(木) 3:00p.m.
9月25日(月) 3:00p.m.
9月28日(木) 3:00p.m.
会場:NHKホール

■予定される主な出演
領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ

※表記の出演者は2017年1月20日現在の予定です。
http://www.bayerische2017.jp/tannhauser/