初演に寄せて、カステルッチがこれまで手がけたオペラの数々に見られる演出意図や特徴を紹介する記事からの紹介3回目は、彼自身の視点と演出におけるアプローチについての内容です。
(原文はバイエルン国立歌劇場より提供 文:レイリ・ダリオシュ)
私が見つめるもの、私たちを見つめるもの
観客であるということは、今日何を意味するのか? ナサニエル・ホーソーンの小説『牧師の黒いベール』(1836年)にインスピレーションを得て、カステルッチはベールのメタファーを用いる。この布地は、現実のものと眼差しとの間にあって、ひとを不信や不安に導き、ついには現実を新たにでっち上げて、ある別の知覚が可能になる。
「私たちの誰もが身体を、生(せい)を、自我を持っています。自我によって眼差しが定められます。観客としての私は、私が一瞬一瞬に見るものを形作ります。人間的な本質によって定められた眼差しはまるで、一枚の布切れのよう、見られるものと眼差しとの間にある、一枚のベールのようです。眼差しは絶対に必要不可欠なひとつの次元です。私はここで、挿絵やテレビ映像、広告ポスターのことを語っているのではありません。そういったものの中には、見るべきものは何ひとつありません。この場合、眼差しが求められることはないのです。演劇では、私自らが、私の見るものを形作ります。だから、ある作品がちゃんと機能するときには、すべての観客が最後、何かいろいろなものを見ています。」
◾️ロメオ・カステルッチ プロフィール
チェゼーナに生まれ、農学を修めたのち、ボローニャ芸術大学で舞台美術と絵画を学ぶ。1981年、クラウディア・カステルッチ、キアラ・グイディと劇団ソチエタス・ラファエロ・サンツィオを結成、創立時より芸術監督を務める。代表作に『オレステイア』、『ジュリオ・チェザーレ』、『神曲 地獄篇』、『神の子の顔の概念について』、『オルフェオとエウリディーチェ』、『春の祭典』、『いずれとも知れず』がある。演出家および舞台美術家としての活動の傍ら、演劇理論についての著作でも知られる。《タンホイザー》は彼のバイエルン国立歌劇場での初演出。
【公演日程】
バイエルン国立歌劇場日本公演
《タンホイザー》
作曲:R.ワーグナー
演出:ロメオ・カステルッチ
指揮:キリル・ペトレンコ
9月21日(木) 3:00p.m.
9月25日(月) 3:00p.m.
9月28日(木) 3:00p.m.
会場:NHKホール
■予定される主な出演
領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ
※表記の出演者は2017年1月20日現在の予定です。
http://www.bayerische2017.jp/tannhauser/