お気にいりのピアニストがきっとみつかる。Vol.5〜小曽根 真

小曽根 真 ©Yow Kobayashi

 ジャズ・ピアニストとして第一線で活躍し、さらに近年はクラシックのレパートリーでも国内外のオーケストラと共演を重ねている小曽根真さん。

 小曽根さんが協奏曲のソリストをつとめると、どのオーケストラも普段と一味違った表情を見せます。アドリブで音楽を創り上げるジャズの感性を生かし、譜面に書かれた音符を、絶妙の間合いとニュアンスにのせて放っていく。自由なカデンツァ部分などは小曽根ワールド全開、どこに連れていかれるかわからない楽しい旅が待っています。その音楽にオーケストラが触発されることで、耳慣れた曲も新鮮な姿でそこに現れるのです。

 小曽根さん曰く、「演奏会は予期せぬことが起きてこそ。一番良くないのは“予想通り”」。ジャズ、クラシック、どの舞台でも用意した音楽をそのまま出すことはなく、今鳴っている音を聴きながら新しいものを創るのが“小曽根流”だそう。

 そんな小曽根さんが、バッティストーニ指揮の2018年3月定期で演奏するのは、フリードリヒ・グルダの「コンチェルト・フォー・マイセルフ」。20世紀の大ピアニストで、クラシックの枠を超えた自由奔放なミュージシャンだったグルダが書いたピアノ協奏曲です。自らジャズも演奏し、音楽をジャンル分けすることを嫌ったグルダらしく、クラシカルな雰囲気で始まった音楽にドラムスやエレキベースが加わり、ジャズ風の音楽、歌う旋律、内部奏法やトーンクラスターを用いた現代音楽風のカデンツァとさまざまな音楽が飛び出す、彼の音楽への考えがそのまま投影されたような作品です。ジャズやロック、ポップスと幅広い音楽に触れる若きマエストロ・バッティストーニがこの曲に挑むにあたり、オーケストラとの掛け合い、アドリブを自在に操ることができる小曽根さんは、最高のパートナーに違いありません。

クラシックとポピュラー音楽のジャンルを越えて
縦横無尽に活躍したグルダ(1930-2000)。
ピアニストとしてはモーツァルト等でも
名演を残しています

 ちなみにグルダが弾き振りするミュンヘン・フィルとの「コンチェルト・フォー・マイセルフ」の映像を観ると、グルダ自身、とにかく楽しそうに弾いているので、こちらもワクワクしてきます(ミュンヘン・フィルの面々の真剣な表情とのギャップがまたおもしろい)。

 CDや動画で予習しつつ、小曽根さんとバッティストーニ&東京フィルだったらどんな演奏になるのか……想像するのもまた一興。とはいえもちろん、“脱・予想通り宣言”の小曽根さんのことですから、膨らんだ想像の上の上を行く演奏を聴かせてくれることでしょう。その音を聴き、バッティストーニ&東京フィルはどんな音楽を返すのか。シーズンの締めくくりとなる公演、刺激的なコンチェルトを聴くことができそうです。
文:高坂はる香(音楽ライター) イラスト:沙良志乃

【公演情報】
第116回東京オペラシティ定期シリーズ
2018.3/7(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

第904回サントリー定期シリーズ
2018.3/9(金)19:00 サントリーホール

第905回オーチャード定期演奏会
2018.3/11(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
ピアノ:小曽根 真*

グルダ/コンチェルト・フォー・マイセルフ*
ラフマニノフ/交響曲第2番
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522(平日10:00〜18:00)

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「お気にいりのピアニストがきっとみつかる。」特集ページ

http://tpo.or.jp/information/detail-2017-18season-piano-index.php