お気にいりのピアニストがきっとみつかる  Vol.4 〜牛田智大

第902回サントリー定期シリーズ・第903回オーチャード定期演奏会・第115回東京オペラシティ定期シリーズ

牛田智大 ©Ariga Terasawa
<衣装> 企画:(株)オンワード樫山 / 縫製:グッドヒル(株)

 あるピアニストがある曲を弾くという情報を見て、演奏を聴く前から“それは合うでしょう!”と思うことがあります。2018年2月定期公演の「牛田智大さん×グリーグのピアノ協奏曲」も、私にとってはそんな印象の組み合わせ。牛田さんの爽やかな音楽性、優しさがにじむ豊かな感情表現、そしてあの澄んだピアノの音。ノルウェーの作曲家、グリーグの協奏曲が持つ、透明感のあるロマンティックさのようなものを、絶妙に表現してくれそうです。とくに17歳になった最近の牛田さんの演奏は、音にパワーが加わり、表現もより堂々としたものになっているので、北欧の大自然を思わせるダイナミックな音楽に期待してしまいます。

 しかも指揮は、マエストロ・プレトニョフ。牛田さんがこの曲を披露するのは今度の公演が初めてだそうで、“取り組むのはもう少し先にしようかという考えもあったけれど、敬愛するマエストロ・プレトニョフと共演できる機会なので、挑戦することに決めた”とのこと。これまでの共演でも、牛田さんはマエストロからさまざまなことを学んだといいます。

 ところでグリーグとプレトニョフさんというと、私は2016年4月の東京フィル定期での『ペール・ギュント』全曲演奏を思い出します。『ペール・ギュント』は、ノルウェーの劇作家イプセンの戯曲に基づく劇付随音楽で、自由奔放な冒険家ペール・ギュントが放浪の旅に出かけ、若い恋や母の死、金銭的な成功や没落などを経験したのち、年老いて故郷に戻る、その人生を描く作品。もともと2015年に取り上げる予定でしたが、直前にプレトニョフさんのお母様が他界されたこともあり、公演は1年後に持ち越されたのでした。

故郷ノルウェーの自然をこよなく愛した
エドヴァルド・グリーグ(1843-1907)

 人生のあらゆる出来事の意味を見つめなおすような音楽が展開する中、曲が、故郷に一度戻ったペールが母を看取る「オーセの死」に入ったとき、プレトニョフさんがおもむろに眼鏡をはずし、指揮棒を置いて指揮をしていたことが印象に残っています。それにどんな意味があったのかはわかりませんが、音楽からは、息子の冒険を遠くから応援し、戻ればあたたかく迎えてくれる母という存在への想いがあふれるようでした。

 プレトニョフさんにとって、グリーグは大好きな作曲家のひとりだそうです。ピアニストとして、音楽家として、マエストロから若い牛田さんにグリーグの音楽の真髄が受け継がれる瞬間を目にする、そんなコンサートになるかもしれません。
文:高坂はる香(音楽ライター) イラスト:沙良志乃

【公演情報】
第902回サントリー定期シリーズ
2018.2/23(金)19:00 サントリーホール

第903回オーチャード定期演奏会
2018.2/25(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール

第115回東京オペラシティ定期シリーズ
2018.2/26(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール

指揮:ミハイル・プレトニョフ
ピアノ:牛田智大*

シベリウス/交響詩『フィンランディア』
グリーグ/ピアノ協奏曲*
シベリウス/組曲『ペレアスとメリザンド』
シベリウス/交響曲第7番
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522(平日10:00〜18:00)

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