6月12日からロンドンで始まった《ドン・ジョヴァンニ》の再演では、フィナーレ部分に大きな変更がありました。通常、ドン・ジョヴァンニが地獄へ引き込まれた後、レポレロ、ドンナ・エルヴィーラ、ドンナ・アンナ、ドン・オッターヴィオ、ツェルリーナ、マゼットの6人によるアンサンブルが歌われます。カスパー・ホルテンの演出では、2014年の初演の際にも、このアンサンブルの後半だけが歌われる、それも歌手たちは舞台に登場せずに、というものでしたが、今回の再演では、この6重唱すべてがカットされました。
これまでにも、最後のアンサンブルについては、研究者や演奏者たちの間でも意見が別れるところではありました。たとえば、この6重唱の有無は《ドン・ジョヴァンニ》というオペラの悲劇性と喜劇性に関わるという見方。実はモーツァルトは悲劇として描きたかったが、台本作家のダ・ポンテは喜劇としたかったのでは? という見解など、さまざまです。
では、カスパー・ホルテンの考えは?
ホルテンは、ドン・ジョヴァンニにとっての最大の罰は孤独であると考えています。したがって、常に傍らに居てくれたレポレロも逃げ出し、たった一人で過去の亡霊たちと対峙することになったドン・ジョヴァンニは、最後の晩餐の場面から充分に罰を受けているのだ、と。だから、ここにさらに“悪事は報いを受ける”という道徳的な内容の6重唱を入れる必要はないというのがホルテンの解釈です。また、《ドン・ジョヴァンニ》は1787年にプラハで初演された翌年に、件の6重唱をカットしたかたちでウィーン初演が行われました。いずれもモーツァルト自身の指揮によって行われたことから、ホルテンは最後の6重唱をカットするのは、モーツァルトの意向の一つでもあると考え、今回の指揮者アラン・アルティノグルとも検討のうえ、変更を実施したそうです。
では、日本公演はどっちになるのか?という問いに、ホルテンは「指揮者や出演歌手たちとともに考え、そして決めることが重要」との答え。日本公演のフィナーレは一体どっちになるのか?! どうぞお楽しみに。
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