「モーツァルトはエルヴィーラに大きなヒューマニティを与えています。
おそらく全人物の中で最も正直でしょう」
―― 日本へいらしたことはありますか。
ディドナート 1997年頃に東京のコンクールに出て、次はサイトウ・キネン・フェスティバルで小澤征爾氏指揮の《カルメル会修道女の対話》(1998)でした。その後東京の新国立劇場で《セビリアの理髪師》(2002)のロジーナを歌いました。
―― 久しぶりの来日ですね。外国の歌劇場とは初めてだし。エルヴィーラはよく歌うのですか。
ディドナート ヤニック(ネゼ=セガン)と録音したことがあります。舞台で歌ったのはロイヤル・オペラのみ。チャールズ・マッケラスの指揮で、フランチェスカ・ザンベッロの演出でした。
―― ではまだ役作りの最中ですね。
ディドナート 100回歌っても役作りは続きます。
―― 演出が違うと同じ役でも大分変りますか。
ディドナート アンサンブルが重要なオペラなので、キャストが一人違っても反応の仕方や人間関係のバランスが変わります。相手をよく聴いてリアクションを起こすのも演技者としての仕事ですから、当然その都度解釈も変わります。
―― エルヴィーラはドン・ジョヴァンニに愛と憎しみを感じる複雑な役柄ですが、演じるのは難しいですか。
ディドナート いえ、特には。歌の方はかなりたいへんですが、モーツァルトとダ・ポンテはさすがに作劇術に長けていて、特にモーツァルトはエルヴィーラに大きなヒューマニティを与えています。おそらく全人物の中で最も正直でしょう。そしてとてもスペイン的、激しい気性ですから。音楽と歌詞に頼れば演技的にはさほどむずかしくはないです。彼女のありのままを思いっきり外に出せばいいのですから。
―― そのように演じれば歌いやすくなる?
ディドナート さあ、どうかしら。声楽的には大変です。だからこそリアルで正直で情熱的になるのね。
※(インタビューは「その2」に続きます)
(インタビュー・文 秋島百合子 ロンドン在住ジャーナリスト)