ユリア・レージネヴァ インタビュー(その1)

 今秋の英国ロイヤル・オペラ日本公演《ドン・ジョヴァンニ》でツェルリーナを演じるユリア・レージネヴァ。彼女の名前が発表された時点で“反応”したのは、かなり深いオペラ・ファンの方々だったでしょう。すでに、ニューヨーク・タイムズ紙やオペルンヴェルト誌、ザ・ガーディアン紙で、彼女への賞賛の評が伝えられてはいましたが、日本ではまだ未知の若手ソプラノという存在だったのです。しかし去る2月、ソロ・アルバムのリリースに続いて、神奈川県立音楽堂でのバロック・オペラ《メッセニアの神託》出演を経て、にわかに状況は変わってきました。彼女の完璧なテクニックと美しく澄んだ声を前にした日本の聴衆の多くが、次なるユリア・レージネヴァ登場への期待を高めているのです。
 歌手として、また24歳の女性としての愛らしい素直さがうかがわれたインタビューをご紹介します。

Photo:Rikimaru Hotta

Photo:Rikimaru Hotta

ーー1989年サハリン島(樺太島)に生まれ、5歳からピアノや歌の勉強を始め、その後モスクワへと移ったのですね。
レージネヴァ
 両親は地球物理学者なので、サハリンにはその研究のために住んでいました。でも、私が音楽の道に進むことになったときに、数学は本で勉強できるけれど、音楽は演奏会をはじめとしたいろいろなものを体験できる環境が必要だということで、両親はモスクワに移ることを決めたのです。

ーー17歳のとき、エレナ・オブラスツォワ国際コンクールで優勝して、国際的な注目を集められました。
レージネヴァ
 オブラスツォワさんから、「あなたはロッシーニを歌うべきよ」と言われました。それで翌年(18歳のときに)ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルのオープニング・コンサートでのファン・ディエゴ・フローレスとの共演、2010年ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで《湖上の美人》からのアリアを歌うことに・・。

ーーその後にはさらに2012年にはパリでもルネ・フレミングやナタリー・デセイらとともにガラ・コンサートに出演して、ロッシーニでの大成功、素晴らしいコロラトゥーラ、軽やかなアジリタをこなす実力も示されました。まさに助言は当たっていた! そのテクニックを、どうやって身につけられたのでしょう?
レージネヴァ
 テクニックというのは、自分ではすごいとは思っていないのです。ただ、一つ言えるとしたら、自分が本当に元気でエネルギーいっぱいのときには特別に気にしなくてもできることが、肉体的な疲れがあったり、精神的なダメージがあったりしたときには、しっかりと考えてテクニックを意識しないと、きちんとしたレベルを保てないということになります。学生のころとは違って、プロとしてやるなかでは周りとハーモニーを保った状態であることもとても重要です。自分だけの世界で慢心するのもダメ。これが崩れるとテクニックに悪い影響が出るのです。常にやりたいこと、希望を失わないでやっていくことが、私の場合にはテクニックを保つことにつながっていると思います。それから、コロラトゥーラというのは、すごい喜びや幸福の絶頂かと思うと、ものすごい怒りだったり、その激しさを表現するアリアなんですね。だから、その切り替えがパッとできないといけない。自分のなかで、到達点というか、アジテートな感じがきちっとできていないと、切り替えてすぐに表現することができないのです。
※(インタビューは「その2」に続きます)
(吉羽尋子 音楽ライター)

■英国ロイヤル・オペラ2015年来日公演《ドン・ジョヴァンニ》