クラウス・フロリアン・フォークト〜チューリッヒ・リサイタルより 

〜変幻自在な相対する魅力〜

 バイエルン国立歌劇場で、『タンホイザー』のタイトルロールに初挑戦するクラウス・フロリアン・フォークト。音楽ジャーナリストの中東生さんが、2月にチューリッヒで行われたリサイタルの模様を伝えてくれました。
[日本公演の WEBチケット先行発売は3月31日まで!]

 クラウス・フロリアン・フォークトは彼の母国ドイツにおいて、ワーグナーが描く純ドイツ的英雄の権化のような存在だ。 背が高く、金髪という典型的ゲルマン民族の容姿に筋肉質なボディが適役なのだが、彼自身はそのイメージを自嘲するように、大好きなバイクに乗り、キャンピングが趣味という庶民的な姿で現地のマスコミに登場する 。
 日本人から見るとブロンドの長髪をなびかせながら、白馬に乗って登場する王子様さながらロマンティックで優しい印象を受けるが、実際の彼に接すると、それら全てを持ち合わせているのだと解る。ファン達にはおっとりとサインしたり、写真撮影に応じたりする優しいスターだが、会話すると、ごく普通のサバサバした口調だ。そしてそれらの要素全てがより顕著に現れるのが、ドイツ歌曲だろう。フォークトはこれまでに聴いた誰よりも一番素の声で歌うが、鋼のように硬質でパワフルな声にまで到達する。語るように歌ったかと思えば、レガートをどこまでも膨らませたりする。暗く劇的な慟哭を聴かせたと思うと、ふと一筋の微かな光が差したような明るさを帯びる。そんな彼の声は、瑞々しいモーツァルト・テノールと強靭なヘルデンテノールという両極を変幻自在に行き来する。
 2月23日チューリッヒ歌劇場でのリーダーアーベントでもその相対性がエキサイティングだった。プログラム最初のハイドンでは座席数1000人強の空間にピッタリの、明るく開いた柔らかな弱声で子供が歌うように始めたが、そのうち長いレガートも聴かせ、そのレガートをクレッシェンドさせて 輝かしく膨らませた。
 次のブラームスに入る前に挨拶を挟み、「毎朝奥さんに歌ってます」と笑いを取りながら《おきなさい、愛しい人よ》を歌う。《甲斐なきセレナーデ》はその夫人との二重唱であった。プログラムには載っていないマーラーの曲を3曲「後半への導入に」とコメントしながら歌い、 休憩の後は「やあ皆さん、まだいてくれたのですね?」と茶目っ気を見せた直後、マーラーの《さすらう若者の歌》の暗さに支配される。 時折ハイドンの時のような明るい声を使うので、暗さが一層増し、柔らかなささやきがあるからこそ、ピンと張った声が引き立つ。 最後のシュトラウスはキラキラと歌いながら駆け抜け、アンコールも3曲披露した。 「来日公演ではタンホイザーだけでなく、タミーノも歌って欲しい」という超人技も夢想させるのが彼の魅力だ。
(取材・文:中 東生 在チューリッヒ、音楽ジャーナリスト)

クラウス・フロリアン・フォークト
Photo:Harald Hoffmann


【公演日程】
バイエルン国立歌劇場日本公演
《タンホイザー》
作曲:R.ワーグナー
演出:ロメオ・カステルッチ
指揮:キリル・ペトレンコ
9月21日(木) 3:00p.m.
9月25日(月) 3:00p.m.
9月28日(木) 3:00p.m.
会場:NHKホール

■予定される主な出演
領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ

http://www.bayerische2017.jp/tannhauser/