“パスティッチョ”様式の《アモーレとプシケ》に登場する楽曲について

 この《アモーレとプシケ》は「パスティッチョ」という、聞きなれない様式で作られたオペラです。「パスティッチョ」とはイタリア語で、本来は料理の「パイ」のこと。これが転じて、「寄せ集め」「ごった煮」を意味する言葉に。さらに、音楽の世界では、複数の作曲家の作品から、有名なアリアや二重唱、合唱曲など、“おいしいところ=聴きどころ”を選んで、メドレーのように再構成した作品を意味します。

 パスティッチョによるオペラは、特に18世紀ナポリ派に多くの作品が残されています。さらに、フランスでは「パスティーシュ」と呼ばれた同様の作品があり、ドイツでも、ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜1767)ら大作曲家ですら、この手法によるオペラや器楽作品を手掛けています。

 つまり、他人の作品からの引用は、当時、今で言う“パクり”の感覚ではなく、正当な創作活動のひとつとして、広く認められていたのでした。彌勒忠史さんは今回、「パスティッチョ」ならではの“おいしいとこ取り”の魅力に着目。この手法を借りて、17世紀バロックの名旋律の数々を、ひとつの魅力的なストーリーのもとに再構成し、《アモーレとプシケ》というひとつの大きな音楽の花束に纏め上げたのです。

 その軸に据えたのは、バロック時代への扉を開いたクラウディオ・モンテヴェルディ(1567〜1643)の作品。最初期のオペラ作品にして、金字塔ともいうべき傑作《オルフェオ》から、テノールが演じる主人公オルフェオが絶望を吐露する〈わが神〈希望〉よ〉、《ポッベアの戴冠》から愛を謳い上げる二重唱〈ただあなたを見つめ〉など、現代人の感性にもダイレクトに訴えかけて来る、劇的な名旋律をピックアップしています。

 そして、やはりモンテヴェルディをはじめ、ジュリオ・カッチーニ(1545頃〜1618)、ジローラモ・フレスコバルディ(1583〜1643)、タンクイルロ・メールラ(1594/95〜1665)といった巨匠たちの手になる、それぞれに色彩の異なった、しかし、しみじみと心に響く、マドリガーレの名曲も配されています。

 さらに、ヘンリー・パーセル(1659〜95)の傑作オペラ《妖精の女王》(1692)から、有名なソプラノのアリア〈嘆きの歌〉やジョン・ダウランド(1563〜1626)のリュート・ソング〈暗闇に私を住まわせて〉とイギリスの作曲家の作品を。そして、ソナタや舞曲など、モンテヴェルディと同時代のイタリアの器楽のための作品も。
 
 そして、締め括りに置かれるのは、ジョヴァンニ・ガストルディ(1553〜1609)の代表作「5声のパレット」から、喜びに満ちた〈幸ある日々〉。さながら、「パスティッチョ」という手段を用いた、17世紀バロックに花開いた名旋律を並べた、「ガラ・コンサート」とでも申せましょう。
文:寺西 肇

※ご紹介した曲目は、都合により変更になる場合がございます。予めご了承ください。

アンソニー・ヴァン・ダイク《アモルとプシュケ》 1638年
ロイヤル・コレクション

 


【Information】

彌勒忠史プロデュース
バロック・オペラ絵巻《アモーレとプシケ》

(セミ・ステージ形式/日本語字幕)

2020.3/19(木)18:00
3/20(金・祝)14:00
紀尾井ホール

制作総指揮・脚本:彌勒忠史
音楽ディレクター:濱田芳通
振付・ステージング:森田守恒

キャスト:
プシケ:花柳凜
アモーレ、西風:白髭真二/2役
ヴェーネレ、父王:観世喜正(19日)・梅若紀彰(20日)/2役・ダブルキャスト
2人の姉:阿部雅子、上杉清仁

歌:阿部雅子(ソプラノ)、上杉清仁(カウンターテナー)、新海康仁(テノール)、坂下忠弘(バリトン)
演奏:アントネッロ(古楽アンサンブル)、吉永真奈(箏)

料金:S¥10,000 A¥7,000 U29-A*¥3,000
*U29は公演当日に29歳以下の方を対象とする割引料金です。

問:紀尾井ホールチケットセンター 03-3237-0061(10時~18時/日・祝休)
http://www.kioi-hall.or.jp/