「アモーレとプシケ」の物語は、帝政ローマ時代の作家ルキウス・アプレイウス(123頃〜?)が書いた小説『黄金のロバ(変容)』の挿話の一つとして、ギリシャ神話を基に書かれました。太古から現代に至るまで広く人々に愛され、音楽だけではなく、様々な絵画や彫刻、文学作品の題材にもなっています。
「キューピッド」とも呼ばれる、愛の神アモーレ。実は人間の「心」や「魂」を象徴である、美貌の娘プシケ。2人の愛の軌跡を描いたストーリーは、女性があらゆる困難を乗り越えて「理想の男性(アニムス)を獲得する」、つまり「自己実現」を果たすというアウトラインから成り立っています。
その一方、様々な人間の欲望が織り込まれ、私たちの日常生活にも通じうる、様々な教訓を内包しています。例えば、一時は妹の身を本気で案じていた2人の姉は、その幸せな生活を目の当たりにした途端、嫉妬に身を焦がすようになります。
かたや、プシケも完璧なヒロインではありません。ある時は、自身の疑念を抑えきれず、せっかく手にした幸せを失ってしまうことに。あるいは、もう少しで願いが叶うという場面で、欲望を抑え切れず、中を見ることを禁じられた小箱を開けてしまうことも。
これは、現代を生きる私たちにも大きな示唆を与える、極めて「普遍的」な物語、と言えるでしょう。
文:寺西 肇
【あらすじ】
ある国の王には、3人の娘がいました。特に末娘のプシケは、この世のものとは思えぬ美貌の持ち主でした。このため、人間界の民は、天上にある愛の神ヴェーネレ(ヴィーナス)ではなく、人間であるプシケを崇め奉るように。立腹したヴェーネレは、息子である愛の神アモーレに、「世界で最も卑しい男に恋する」という魔法をかけた金の矢を、プシケに打ち込むよう命じます。
しかし、アモーレはプシケの美しさに目がくらみ、誤って自分の矢で自身を傷つけてしまい、彼女に恋い焦がれることに。アモーレは母のもとへ戻り、「プシケを妻にしたい」と申し出ますが、当然ながら、ヴェーネレは激怒。復讐の女神フリエを召喚する場面で、〈第1幕〉は終わります。
〈第2幕〉では、アモーレとプシケの愛の成就と、その喪失が描かれます。そして、〈第3幕〉では、愛と信頼を取り戻すため、プシケの冥界への過酷な旅が、いよいよ始まるのです。果たして、アモーレとプシケは、失われた愛と信頼を回復し、「神」と「人間」の境界も乗り越えて、幸せになることができるのでしょうか――。
【Information】
彌勒忠史プロデュース
バロック・オペラ絵巻《アモーレとプシケ》
(セミ・ステージ形式/日本語字幕)
2020.3/19(木)18:00
3/20(金・祝)14:00
紀尾井ホール
制作総指揮・脚本:彌勒忠史
音楽ディレクター:濱田芳通
振付・ステージング:森田守恒
キャスト:
プシケ:花柳凜
アモーレ、西風:白髭真二/2役
ヴェーネレ、父王:観世喜正(19日)・梅若紀彰(20日)/2役・ダブルキャスト
2人の姉:阿部雅子、上杉清仁
歌:阿部雅子(ソプラノ)、上杉清仁(カウンターテナー)、新海康仁(テノール)、坂下忠弘(バリトン)
演奏:アントネッロ(古楽アンサンブル)、吉永真奈(箏)
料金:S¥10,000 A¥7,000 U29-A*¥3,000
*U29は公演当日に29歳以下の方を対象とする割引料金です。
問:紀尾井ホールチケットセンター 03-3237-0061(10時~18時/日・祝休)
http://www.kioi-hall.or.jp/