《魔笛》伝説の名演出誕生秘話(2)

 初演から39年が経つ今なお、伝説の名演出と呼ばれる《魔笛》。演出家アウグスト・エヴァーディングとともにこのプロダクションを手がけた美術家ユルゲン・ローゼによる誕生秘話を3回にわたってご紹介する2回目は、エヴァーディングが演出上大切にしたポイントについて。

人間性が大事!
 エヴァーディングが、この作品が継ぎ目なく上演されることを重視したことはこのシリーズ(1)でご紹介した通り。そしてもう一つ重視したのは、登場人物の人間性を浮き彫りにすることでした。たとえば僧侶は18世紀の人間として描かれています。
「これは当時、画期的なことでした。それまでは僧侶は大抵、エジプト風の装飾を身につけ、ファラオの時代の兜を被り、祭儀的な衣裳を着けていたのです。でも、私たちにとって大事だったのは、彼らを人間として表現すること。それはモーツァルトの時代にいたかもしれないような人間です。私たちの後、ジャン=ピエール・ポネルがザルツブルクの《魔笛》で、同じように僧侶を18世紀の衣裳で登場させたのを覚えています」

 3人の童子について、現在では少年が歌うことが定着していますが、これもエヴァーディング&ローゼのこのプロダクションが起源となったようです。
「私たちにとってまずはっきりしていたのは、3人は必ず子役でなければならないということでした。当時はほとんどの場合、女性合唱の若いメンバーがこの役を歌っていました。しかし私たちは子どもたちに、つまり3人の男の子に演じてもらいたかったのです。彼らがどこから来たのか謎めいているのに相応しく、物語の進行とともに、小さなモーツァルトになったり、良家のお坊ちゃんになったり、わんぱく小僧になったりと変化していくのです。いずれの姿でも、雲に乗ってやってくるとはいえ、彼らは地上の存在です」 

(その3に続く)

イラスト画(ザラストロ)
エヴァーディングとローゼのアイディアに基づいたザラストロの衣裳デザイン画

イラスト画(3人の童子)
3人の童子の衣裳デザイン画と雲に乗った3人のスケッチ

Photo:Wilfried Hösl

【公演日程】
バイエルン国立歌劇場日本公演

《魔笛》
作曲:W.A.モーツァルト
演出:アウグスト・エヴァーディング
指揮:アッシャー・フィッシュ
9月23日(土・祝) 3:00p.m.
9月24日(日) 3:00p.m.
9月27日(水) 6:00p.m.
9月29日(金) 3:00p.m.
会場:東京文化会館

■予定される主な出演
ザラストロ:マッティ・サルミネン
タミーノ:ダニエル・ベーレ
夜の女王:ブレンダ・ラエ
パミーナ:ハンナ=エリザベス・ミュラー
パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ
パパゲーナ:エルザ・ベノワ

※表記の出演者は2017年1月20日現在の予定です。

http://www.bayerische2017.jp/