ソフィア・コッポラのヴィオレッタを演じるために
魂を持っているように感じるヴァレンティノの衣裳からは優雅な振舞いを、ソフィア・コッポラの指示からは女性特有のきめ細かさを、いずれも大切な経験ですーーローマ歌劇場のこのプロダクションではプレミエキャストでしたね。ファッション界の大御所であるヴァレンティノが手掛けた衣裳も大変話題になりましたけれど、実際にヴァレンティノの衣裳を着て舞台に立たれた時、特別な感覚はありましたか?
舞台で起こるどんな経験も何か大切な思い出を残してくれます。今回のプロダクションでヴァレンティノさんと仕事をしたことで、優雅な振舞いを身に付けることができたと思っています。この舞台で着た衣裳は芸術作品と言っても過言ではないでしょう。衣裳が魂を持っているような感じがしました。ものすごくかさばった衣裳ですから、着方や着こなし方を間違えると、全く不格好になってしまうのです。エレガントな着こなしができるように何度も繰り返して自分の動きを練習しました。ヴァレンティノさんのデザインした服はトップモデルや映画の大スターなどが着ていますよね。我々オペラ歌手は立ったり座ったり、しかも歌いながら演技をするのです。ヴィオレッタは聡明でエレガントな女性という設定ですし、私の動き方によって衣裳が生き生きするかどうか左右されてしまうということをいつも意識していました。オペラ歌手としての今後の演技にとても役立つ経験ができたと思っています。
ーー演出家のソフィア・コッポラさんとはどのように準備を進められましたか?
ソフィアさんは映画の監督ですから、舞台の演出家とはアプローチの仕方が違いました。彼女は私たちのことをよく観察していました。とても繊細な方で、女性特有のきめ細かさを持っていると思いました。私たちはお互いに自分の考えを表わすことができましたが、演技に関しては非常に細かいところまで指示がありました。彼女にとってはオペラの演出は初めてだったのですが、出来上がった時には満足していただけたようで、喜んでくださいました。映画だとシーンによって役者を至近距離で撮影することがあるからだと思いますが、細部へのこだわりがありました。特に第2幕のジェルモンとの場面、アルフレードに別れを告げる「Amami Alfredo(私を愛して、アルフレード)」の場面、第3幕のアルフレードとの二重唱など細かい演技を求められました。この経験も私にはとても役立ちました。
ーーヴィオレッタに限らず、オペラの役柄を演じるうえでの表現について何か特別に勉強されていることがありますか?
まずは音楽をよく聴きます。それから楽譜をじっくり読みます。役柄が歴史上の人物であるなら、その歴史に関する本を読みますし、原作がある場合、例えばヴィオレッタの場合はデュマの「椿姫」(原題:La Dame aux camélias)を読んだり、ボロニーニ監督の映画を観たりして、登場人物への知識を増やします。その人物がどのような社会のどのような環境に存在しているかを知ることはとても大切なことだと思います。そして、作曲家がどのような気持ちで登場人物を描いたのかを調べることも役に立ちます。何度も歌った作品でも何か関連する本を見つければ読むようにしています。毎回新しい発見があると、より興味を持てるので勉強することが楽しくなります。
インタビュー・文:田口道子
(その3に続く)
■公演情報
ローマ歌劇場2018年日本公演
《椿姫》
9月9日(日) 15:00
9月12日(水) 15:00
9月15日(土) 15:00
9月17日(月・祝)15:00
東京文化会館
指揮: ヤデル・ビニャミーニ
演出: ソフィア・コッポラ
美術: ネイサン・クロウリー
衣裳: ヴァレンティノ・ガラヴァーニ
照明: ヴィニーチョ・チェーリ
ビデオ: イゴール・レンツェッティ、ロレンツォ・ブルーノ
振付: ステファン・ファヴォラン
■出演
ヴィオレッタ・ヴァレリー: フランチェスカ・ドット
フローラ・ベルヴォワ: エリカ・ベレッティ
アルフレード・ジェルモン: アントニオ・ポーリ
ジョルジョ・ジェルモン: アンブロージョ・マエストリ
ローマ歌劇場管弦楽団
ローマ歌劇場合唱団
ローマ歌劇場バレエ団
※表記の出演者は2018年5月31日現在の予定です。病気や怪我などのやむを得ない事情により出演者が変更になる場合があります。その場合、指揮者、主役の歌手であっても代役を立てて上演することになっておりますので、あらかじめご了承ください。
■料金(税込)
S席¥54,000 A席¥47,000 B席¥40,000 C席¥33,000
D席¥26,000 E席¥19,000 F席¥12,000
学生券¥8,000
*学生券はNBS WEBチケットのみで2018.8/3(金)18:00より受付開始。