追う女と追われる男、愛と疑惑、罪と罰… プロジェクション・マッピングの効果が魅せるスピーディな展開

ホルテン演出のフィナーレPhoto:ROH/Bill Cooper,2014 for Don G
ホルテンはこの新演出より前に、映画『ドン・ジョヴァンニ(Juan)』を制作しています。その際、スクリプターの言葉に驚いたそうです。モーツァルトのオペラを知らなかった彼女にとっては、ドン・ジョヴァンニのような男はヒドイ悪党でしかなく、共感すべき点がないと。たしかに、ドン・ジョヴァンニの行いは不道徳にして非道ですが、オペラを知る者にとっては“抗えない魅力をもった男”が大前提になっています。この驚きをもとに、ホルテンがドン・ジョヴァンニへの視点をあらためてもったことは、オペラの新演出にも影響していると考えられます。
ホルテンはオペラの新演出では、ドン・ジョヴァンニの独創的かつ性的なエネルギーに焦点を当てました。そのエネルギーは魅力的ですが、破壊的でもあります。ドン・ジョヴァンニは、最期まで悔いることなく地獄に落ちていくことになりますが、ホルテンの演出は、ドン・ジョヴァンニが自らこの最期に突き進んでいこうとしているようでもあります。オペラが終わったとき、おそらく大方の人が意外に感じ、でもふと立ち止まって、現代における“ドン・ジョヴァンニにとっての地獄”とは?と考えることを、ホルテンは想定したのかもしれません。追う女と追われる男、愛と疑惑、罪と罰、時代を問わないこの普遍のテーマを、現代に生きる者はどう考えるか?と。

カスパー・ホルテンPhoto:Sim Canetty-Clarke 2011
★カスパー・ホルテンって、こんな人★

映画『ドン・ジョヴァンニ(Juan)』
逆に、今回上演されるオペラでは極端な“読み替え”は行わない代わりに、プロジェクション・マッピングを用いることで、これまでのオペラには無い“見せ方”に挑みました。プロジェクション・マッピングには、ロンドン五輪閉会式の映像コンテンツのクリエイティヴ・ディレクターを務めたルーク・ホールズを起用しています。