オーケストラと精鋭の歌手たちが官能性を表現する
20世紀イタリアの大傑作
首席指揮者アンドレア・バッティストーニは、何年か前から「東京フィルで《フランチェスカ・ダ・リミニ》を演奏するのが夢だ」と語っていた。それは理がある話で、このオペラは日本における知名度こそ高くないものの、斬新かつ洗練され、20世紀のイタリア・オペラの紛れもない傑作である。イタリア・オペラを伝統的に特徴づけてきた美しく繊細な旋律は健在で、そこにR.シュトラウスらの影響も受けたと思しき近代的で饒舌なオーケストレーションも加わり、憂愁と官能が表現される。
オーケストラによる近代的な表現が大好きで、複雑な書法で書かれた20世紀のオペラから劇的なポテンシャルを引き出すのが得意なバッティストーニが、手兵であり、オペラティックな情感の表現ではどのオーケストラより長けている東京フィルとともに、このオペラを演奏したいと願う気持ちは、至極当然のものだったといえよう。
政略結婚で醜い男に嫁がされたフランチェスカが、結婚前から恋に落ちていた夫の弟とあらためて惹かれあい、不倫の関係に陥った末、不倫相手とともに殺される−−。ダンテ『神曲』の「地獄篇」に登場する逸話に基づいてダヌンツィオが書いた戯曲が原作で、ザンドナーイの音楽は、退廃的であれ官能的で、さらには悲哀に満ちた雰囲気をよく掬いあげている。官能性を帯びた不道徳な色合いを、バッティストーニと東京フィルが音楽の劇性を維持しながらどう乗せるか。これは聴きものである。
女声合唱は甘美で繊細で、男女の二重唱は官能的で色彩に満ち、ドラマの展開にハラハラさせられつつ、音楽そのものを味わう醍醐味も味わえる。ザンドナーイは歌手の劇的表現への要求レベルも高いが、幸いレーヴァ、ガンチ、ヴァッサッロとイタリアの精鋭が来日する。近代的オーケストレーションと、美しく力強い歌唱、そして合唱によって織りなされる絵巻に、このオペラの傑作ぶりをだれもが実感するだろう。
文:香原斗志
*指揮者アンドレア・バッティストーニは来日は不可能となり、本公演は指揮者および曲目を変更しての開催となります。(9/3主催者発表)
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.tpo.or.jp/information/detail-20200903-01.php
【公演情報】
第942回 サントリー定期シリーズ
2020.9/25(金)19:00 サントリーホール
https://www.tpo.or.jp/concert/20200925-01.php
第943回 オーチャード定期演奏会
2020.9/27(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
https://www.tpo.or.jp/concert/20200927-01.php
第136回 東京オペラシティ定期シリーズ
2020.9/29(火)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
https://www.tpo.or.jp/concert/20200929-01.php
指揮:アンドレア・バッティストーニ
フランチェスカ:マリア・テレーザ・レーヴァ
パオロ:ルチアーノ・ガンチ
ジョヴァンニ:フランコ・ヴァッサッロ
合唱:新国立劇場合唱団
ほか
ザンドナーイ/歌劇《フランチェスカ・ダ・リミニ》(全4幕)
※公演時間は約3時間を予定しております。