2020年9月・10月 午後のコンサートの聴きどころ

 東京フィル9月の「渋谷」「休日」の両「午後のコンサート」は、“炎のマエストロ”小林研一郎がおくる「ウィーンの森で」。これはコバケンとしては若干意外なテーマだ。まず前半は、ヨハン・シュトラウスⅡのワルツ「美しく青きドナウ」「ウィーンの森の物語」と「ピチカート・ポルカ」が披露される。ワルツ2曲は、ウィーンの街ならぬ“自然”をテーマにした作品にして、“ワルツ王”の大看板曲。コバケンのウィンナ・ワルツは珍しいだけに、その表現が興味深い。後半はベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。こちらもウィーン郊外の(当時の)田舎ハイリゲンシュタットで主に書かれた作品で、その地の自然や風物がイメージの中心にある。ベートーヴェンは毎年大晦日に交響曲全曲を指揮しているコバケンの十八番。だが「田園」の単独演奏もやはり珍しい。今年80歳を迎え、円熟の極みにあるマエストロが描く“ウィーンの自然”の音楽には、かつてない広がりや味わいが期待される。

 10月の「平日」の「午後のコンサート」は、セントラル愛知交響楽団の常任ポストをはじめ、着々と活躍の場を広げている俊英指揮者・角田鋼亮が当シリーズ初登場を果たし、ヴァイオリン界の至宝ともいうべき前橋汀子と共演する。この若手vsベテランのコラボは新鮮だし、「夢見る頃を過ぎても」のタイトルもどこか意味深だ。前橋が弾くのは彼女の代名詞ともいえる名曲、「愛の挨拶」「タイスの瞑想曲」と「ツィゴイネルワイゼン」。ここは熟成を重ねた至芸をあらためて堪能したい。他はドイツ・オペラの有名管弦楽曲が並んでおり、耳慣れた名曲に正面から挑む角田の音楽作りに注目が集まる。
 また、9〜10月における重鎮と新鋭の日本人指揮者比較も、得難い愉しみとなる。
文:柴田克彦

【紹介公演】
●第85回 休日の午後のコンサート〈ウィーンの森で〉
2020.9/6(日)14:00 東京オペラシティ コンサートホール

https://www.tpo.or.jp/concert/20200906-01.php
●第7回 渋谷の午後のコンサート〈ウィーンの森で〉
2020.9/8(火)12:00、15:00 Bunkamura オーチャードホール

*本公演は同日2公演の開催に変更となりました。(6/17主催者発表)
変更前)14時公演 変更後)12時、15時公演

https://www.tpo.or.jp/concert/20200908-01.php

指揮とお話:小林研一郎

J.シュトラウスⅡ/ワルツ「美しく青きワルツ」
J.シュトラウスⅡ、ヨーゼフ・シュトラウス/ピチカート・ポルカ
J.シュトラウスⅡ/ワルツ「ウィーンの森の物語」
ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」

●第20回 平日の午後のコンサート〈夢見る頃を過ぎても〉
10/14(水)14:00 東京オペラシティ コンサートホール

https://www.tpo.or.jp/concert/20201014-01.php

指揮とお話:角田鋼亮
ヴァイオリン:前橋汀子*

ワーグナー/楽劇《ニュルンベルクのマイスタージンガー》より第1幕への前奏曲
エルガー/愛の挨拶*
マスネ/タイスの瞑想曲*
サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン*
ウェーバー/歌劇《魔弾の射手》序曲
ワーグナー/歌劇《タンホイザー》序曲