2020年1月定期の聴きどころ

「何かの始まり」を予感させるラフマニノフとベルリオーズ、
フレッシュな指揮者とピアニストの出会い

 

 東京フィルハーモニー交響楽団の2020年1月定期演奏会は、首席指揮者アンドレア・バッティストーニ(1987〜)、気鋭のピアニスト阪田知樹(1993〜)の出演でラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」とベルリオーズの「幻想交響曲」を聴く。

 全く同一のプログラムの記憶は1981年9月18日、東京文化会館の東京都交響楽団第139回定期演奏会。のちに音楽監督を務めたイスラエルの指揮者ガリー・ベルティーニ(当時54歳)と都響の初共演、ラフマニノフのソロは当時38歳の中村紘子だった。あれから40年近くが経過した今、日本のオーケストラの演奏、芸術の両面における能力は飛躍的に向上する一方、欧米から客演する指揮者たちも若返り、ヨーロッパでもキャリアの「上り坂」にいる活きのいい顔触れに一変した。バッティストーニはオペラ指揮者の印象が強いが、チェロと作曲も学び文学にも造詣が深い。ロシア音楽の息の長い旋律、フランス音楽の華やかさへの適性は十分だ。

 日本の若い世代のオーケストラ楽員も豊富な留学体験、急増したオペラ演奏経験を通じ、インターナショナルな表現力や室内楽的な相互の意思疎通を自然に身につけている。他方、一時は韓国、中国勢の台頭に押され放しになっていた日本の器楽ソリスト、とりわけ男性のピアニストやチェリストの国際コンクールでの巻き返しも目覚しい。阪田も2016年、アジア人男性ピアニストとして史上初めて、ブダペストのリスト国際ピアノ・コンクールに優勝し、スターダムに躍り出た。単に技巧が優れているだけにとどまらず、作曲にも強い意欲を示す総合的音楽家である。

 若いイタリア人指揮者と日本人ピアニストが2020年の東京で奏でるロシアのピアノ協奏曲から立ち上るのは、間違いなく、ラフマニノフ自身がアメリカ演奏旅行の最後、マーラー指揮ニューヨーク・フィルと共演した「第3番」の“世紀の名演奏”へと一直線に通じるグローバル・スタンダードだろう。20年はベートーヴェンの生誕250年だが、指揮者としてその交響曲を率先してフランスで演奏したのがベルリオーズだった。先人が遺した「第6番〈田園〉」の世界をこれまた一直線に引き継いだ「幻想交響曲」では、バッティストーニの熱く、それでいて見通しの良い棒さばきを存分に楽しめるはず。2曲の背後には日本、世界の音楽史の重層が垣間見えて面白い。
文:池田卓夫


【公演情報】
第130回 東京オペラシティ定期シリーズ
2020.1/23(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第930回 サントリー定期シリーズ
2020.1/24(金)19:00 サントリーホール
第931回 オーチャード定期演奏会
2020.1/26(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
ピアノ:阪田知樹

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番
ベルリオーズ:幻想交響曲