「トロイカ」体制の勝負曲目白押しにレニーのトッピング
〜東京フィル2020定期演奏会は直球路線、特別演奏会や午後のコンサートも多彩に
1911年発足と日本で最も長い歴史を持つオーケストラ、東京フィルハーモニー交響楽団の2020年シーズンは、首席指揮者アンドレア・バッティストーニ、特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフ、名誉音楽監督チョン・ミョンフンと、伊露韓のマエストロ3人による「トロイカ体制」を基本に、それぞれ勝負曲で8回の定期演奏会を組んだ。円熟の深い境地をどこまでも力強く歩むチョン・ミョンフン、独特の表現世界を究めるプレトニョフ、圧倒的なエネルギーの背後に知の刃(やいば)が光るバッティストーニの3人を抱えるのは、東京フィル最大の強みである。
バッティストーニは深く傾倒するロシア音楽からラフマニノフ、フランス音楽の新時代を切り開いた「幻想交響曲」(1/23,1/24,1/26)、イタリア・オペラのレアものザンドナーイの《フランチェスカ・ダ・リミニ》」(9/25,9/27,9/29)。プレトニョフはスメタナの「わが祖国」(3/13,3/15,3/16)、シチェドリン、チャイコフスキーと自身も属するスラヴ文化圏の作品(6/21,6/22,6/24)。チョン・ミョンフンはパリ・オペラ座を率いた時代から何度も手がけてきたビゼーの歌劇《カルメン》(2/19,2/21,2/23)、生誕250年のベートーヴェン(7/15,7/17,7/19)、マーラーの長大な「交響曲第3番」(10/19,10/22,10/25)と王道路線。4月だけは佐渡裕に委ね師バーンスタインの軽妙な管弦楽曲(4/12,4/14,4/15)、シリアスな交響曲を一晩で指揮する。ソリストにも阪田知樹(ピアノ)、服部百音(ヴァイオリン)、中島郁子(アルト)ら、21世紀の日本楽壇を背負って立つのが確実な新進を率先して起用しているのが、新しい展開といえる。
お楽しみは定期演奏会以外にもたくさん用意してある。年明け早々、1月2、3日の「ニューイヤーコンサート2020」(オーチャードホール)は円光寺雅彦の指揮、俳優としても活躍する清塚信也のピアノ、朝岡聡の司会で華やかな作品を堪能する。東京オリンピック&パラリンピック開催にちなみ、古関裕而が前回(1964年)開催時に作曲した「東京オリンピック・マーチ」を演奏するが、古関は2020年4月に始まるNHKの「朝ドラ」次回作『エール』の主人公のモデルでもある。さらに名曲の数々をメドレー形式で満載した「お楽しみ福袋プログラム」まで至れり尽くせりの内容だ。
また「渋谷の」「平日の」「休日の」の3タイトルで続く「午後のコンサート」シリーズではバッティストーニ、佐渡、円光寺に加え、尾高忠明(桂冠指揮者)、小林研一郎の大家から角田鋼亮、三ツ橋敬子の新進までの個性豊かなマエストロの指揮だけでなく、お話も楽しめる。ソリストも若手の髙木竜馬(ピアノ)からヴァイオリンのレジェンド前橋汀子まで、多彩にそろえている。日本人作曲家の作品も隠し味のように含まれていて、バッティストーニが8月4日の「平日」に外山雄三の「管弦楽のためのラプソディー」、尾高が7月23日の「休日」で古関の「東京オリンピック・マーチ」を今井光也の「オリンピック東京大会ファンファーレ」とともに指揮する(いずれも東京オペラシティ コンサートホール)。
もちろん毎年の終戦記念日(8/15)には東京フィル副理事長でもある「トットちゃん」、黒柳徹子が初回から一貫して出演してきた「ハートフルコンサート」(東京芸術劇場)、12月には年末恒例の「第九」特別演奏会を予定。ふだんクラシック音楽やオーケストラ演奏会に疎遠な人たちも楽しめる機会が、1年を通じふんだんに用意されている。
文:池田卓夫
※東京フィルハーモニー交響楽団2020年シーズンの詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
https://www.tpo.or.jp/concert/2020season01.php
https://ebravo.jp/image/TPO2020panfu.pdf