【19年6月定期】波に乗るマエストロと東京フィルが紡ぐドイツ・プログラムの王道

 沼尻竜典は、今もっとも波に乗る日本人マエストロのひとりだろう。日欧をまたいでのオーケストラ、オペラ双方での活躍に加え、作曲やセミナーなど活動領域は広がるばかり。多忙ななかでも、音楽の深度は着実に増している。
 そんな沼尻が6月に東京フィルと共演するのは、ベートーヴェンの「田園」とマーラーの「大地の歌」という、ドイツ音楽の王道かつ沼尻らしいプログラム。ベートーヴェンは彼が設立したトウキョウ・ミタカ・フィルハーモニーで磨いて以来の十八番だし、マーラーもまた世紀末周辺を愛する沼尻の中核レパートリーだ。オペラ指揮者として「声」を知り尽くす沼尻にとって、「声」が活躍し、マーラーの交響曲のなかでももっとも耽美的な「大地の歌」は、もっとも彼の個性が出せる作品ではないだろうか。
 東京フィルはかつて正指揮者をつとめた沼尻の原点といっていいオーケストラであり、マーラー「夜の歌」などの名演を残してきた。オペラも多く、4月には新国立劇場の《フィレンツェの悲劇》《ジャンニ・スキッキ》で共演の予定だ。メトロポリタンオペラなど世界の第一線で活躍するヘルデンテノールのダニエル・ブレンナ、安定度の高い美声で活躍の幅を広げている中島郁子と、独唱陣も選り抜きだ。
 充実のマエストロが気心の知れたオーケストラと奏でる直球プログラム。オーケストラ好きもオペラ好きも魅せられる一夜になるに違いない。
文:加藤浩子

沼尻竜典
Photo:K.Miura

第922回 サントリー定期シリーズ
2019年6月14日(金)19:00 サントリーホール 大ホール
第923回オーチャード定期演奏会
2019年6月16日(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール

指揮:沼尻竜典
メゾ・ソプラノ:中島郁子*
テノール:ダニエル・ブレンナ*

ベートーヴェン/交響曲第6番 『田園』
マーラー/大地の歌*

左)中島郁子 右)ダニエル・ブレンナ Photo:Emelie Kroon