レオナルド・シーニ(指揮)ヴェルディと《ファルスタッフ》について語る

《ファルスタッフ》は特別なオペラ。人間の深い真実に触れている作品です

レオナルド・シーニ
(C)Laila Pozzo

 東京二期会オペラ劇場《ファルスタッフ》で日本デビューを飾るレオナルド・シーニは、注目株が続出しているイタリアの若手指揮者の中でもポストコロナでの活躍が最も期待される一人である。1990年、サルデーニャ島のサッサリ生まれ。故郷の音楽院を経てロンドンやアムステルダムに学び、2017年にゲオルク・ショルティ国際指揮者コンクールで優勝して脚光を浴びている。


――これまでのキャリアについてお聞かせください。

シーニ(以下S):両親はプロの音楽家ではありませんが、音楽は大好きでした。私自身は、イタリアでは良くあるパターンですが、子どもの頃から街の楽団でトランペットを吹いていました。地元の音楽院を出てからロンドンに行こうと決め、王立音楽院で学ぶうちに指揮に興味を持ったのです。アムステルダムの音楽院で指揮を学び、著名な指揮者やオーケストラと仕事をする機会を得ることができました。一歩一歩前進してきましたが、全ては“運命”だったと思っています。

 ショルティコンクールでの優勝は、キャリアのターニングポイントになりました。世界中のクラシック音楽のマネジメントや芸術監督たちと繋がりができたからです。それから2年後にハンガリー国立歌劇場でプッチーニの《グローリア・ミサ》を振って、公式のデビューを果たすことができました。


――これまでに指揮したヴェルディ・オペラと、その魅力について教えてください。

S:フィレンツェの五月音楽祭で《椿姫》、バーリのペトルッツェリ劇場で《仮面舞踏会》を指揮しました。素晴らしい経験でしたし、2作とも「音楽劇」の分野における偉大な傑作です。

 ヴェルディのオペラは世界中で愛されていますが、それは彼の音楽がダイレクトに心に届き、劇中の人物や彼らの感情を身近に感じさせてくれるからではないでしょうか。

(C)Laila Pozzo


――《ファルスタッフ》は今回がデビューですね。

S:ええ。でも、リッカルド・ムーティのアカデミーに参加した時のメインの作品が《ファルスタッフ》だったので、馴染みはあります。《ファルスタッフ》は特別なオペラです! パワーと繊細さの両方を自在に操って、人間という存在の深い真実に触れている作品だからです。

 このオペラの最大の魅力は、主人公にあります。ファルスタッフは私たちの鏡です。誰もが「老いぼれジョン」の中に自分自身を見出すことができる。シェイクスピアの二つの戯曲を下敷きにしたことで、キャラクターに深みが出ているのです。

 音楽的にも、《ファルスタッフ》はヴェルディ・オペラの中で唯一無二の作品です。ヴェルディはこの作品に彼のそれまでの音楽的な経験をすべて注ぎ込むと同時に、新しい道、新しい表現を探っています。途切れないリズム、コメディの活力、考え抜かれたテンポは、これまでの彼のオペラには見られなかったものです。

 もっとも重要な特徴は際立った柔軟性であり、言葉のリズムと旋律的な流れが音楽に変換されていることです。《ファルスタッフ》の音楽的なアイディアは、言葉から生まれているのです。このオペラの様式的な特徴である「カント・パルラート canto parlato(話すように歌う)」は、古いタイプのオペラ・ブッファにしばしば見られるようなステレオタイプに陥ることは決してなく、とても敏捷で変化に富み、状況が求めるカンタービレな旋律の魅力を深めています。この活力、この途切れないリズム、このスコアの音楽的な豊かさをもっと強調したいと考えています。

 《ファルスタッフ》を指揮することはエキサイティングな挑戦です! 音楽と聴衆への尊敬の念を持ってこの仕事に取り組んでいますが、私自身もとても楽しんでいます。「この世はすべて冗談」なのですから!


――日本の音楽ファンへのメッセージをいただけますか?

S:日本でデビューできることになり、とても幸せです! 実は日本の文化にとても興味があって、盆栽をやったり、水石(すいせき)や掛物を集めたりしているんですよ。

 今回の日本デビューは、私にとってパンデミック後の最大のプレゼントです。パンデミックが始まって以来、有観客のイベントで指揮するのはこれが初めてです。日本の聴衆のみなさんと、素晴らしい音楽の時間を共有できることをとても楽しみにしています。東京文化会館でお会いしましょう!

取材・文:加藤浩子

集めているという水石と


【Information】
二期会創立70周年記念公演
テアトロ・レアル、ベルギー王立モネ劇場、フランス国立ボルドー歌劇場との共同制作公演
東京二期会オペラ劇場 G.ヴェルディ《ファルスタッフ》

(全3幕、日本語及び英語字幕付き原語(イタリア語)上演)


2021.7/16日(金)18:30、7/17(土)14:00、7/18(日)14:00、7/19(月)14:00
東京文化会館

指揮:レオナルド・シーニ
演出・衣裳:ロラン・ペリー

出演
ファルスタッフ:今井俊輔(7/16, 7/18) 黒田 博(7/17, 7/19)
フォード:清水勇磨(7/16, 7/18) 小森輝彦(7/17, 7/19)
フェントン:宮里直樹(7/16, 7/18) 山本耕平(7/17, 7/19)
カイウス:吉田 連(7/16, 7/18) 澤原行正(7/17, 7/19)
バルドルフォ:児玉和弘(7/16, 7/18) 下村将太(7/17, 7/19)
ピストーラ:加藤宏隆(7/16, 7/18) 狩野賢一(7/17, 7/19)
アリーチェ:髙橋絵理(7/16, 7/18) 大山亜紀子(7/17, 7/19)
ナンネッタ:三宅理恵(7/16, 7/18) 全 詠玉(7/17, 7/19)
クイックリー:中島郁子(7/16, 7/18) 塩崎めぐみ(7/17, 7/19)
メグ:花房英里子(7/16, 7/18) 金澤桃子(7/17, 7/19)

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

問:二期会チケットセンター03-3796-1831
http://www.nikikai.net/lineup/falstaff2021/