展望:東京フィル2017-18シーズン定期演奏会

首席指揮者バッティストーニほか3人のマエストロを核とした新シーズン

 2017-2018シーズンの東京フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会は、三人のマエストロが中心となって展開される。その三人とはもちろん、アンドレア・バッティストーニとミハイル・プレトニョフ、そしてチョン・ミョンフン、それぞれにこのオーケストラと特別な関係を結んできたマエストロたちだ。

 まずはアンドレア・バッティストーニのプログラムを見てみよう。首席指揮者として最初の年に、彼は得意とするイタリアとロシアの作品による「舞曲」をテーマにしたコンサート、そしてラフマニノフの交響曲をメインとしたプログラムを用意した。なるほど、彼の最初のシーズンは、得意の作品で最高のパフォーマンスを披露するものとなるのだろう。なかでも注目されるのは、シーズン開幕公演(2017年5月)で演奏する「春の祭典」だ。「指揮台上で踊るよう」とも評される彼の「春祭」はセンセーショナルな出来事となるだろう。そして小曽根真との共演(2018年3月)にこれ以上ない作品、グルダの「コンチェルト・フォー・マイセルフ」を選ぶ若いマエストロの見識には感心させられる。

アンドレア・バッティストーニ 写真提供:サントリーホール

アンドレア・バッティストーニ
写真提供:サントリーホール

 これまでも特別客演指揮者としていくつもの忘れがたい共演を果たしてきたミハイル・プレトニョフが新シーズンに用意した三つのプログラムは、どれをとっても趣向が凝らされたものばかり。国や地域で作品を集め、そこにテーマ性をしのばせたプレトニョフのプログラミングは次期シーズンも私たちを楽しませてくれそうだ。なかでもグリンカからリムスキー=コルサコフ、リャードフに至る帝政ロシア時代の音楽を集めたプログラム(2017年10月)は実に興味深い。民族色の強い作品から幻想的な作品まで、多彩なロシア音楽の豊穣を存分に堪能できる公演だ。
ミハイル・プレトニョフ (C)上野隆文

ミハイル・プレトニョフ
(C)上野隆文

 そしてチョン・ミョンフン。名誉音楽監督として再び訪れた東京フィルとの充実した演奏活動で、彼はかつて演奏した作品を多く取り上げている、まるで現在の東京フィルの音を確かめ、次に進むべき道を探るかのように。新シーズンも同じ傾向だが、東京フィルを「日本の家族」と呼ぶ彼が編んだプログラムは、同僚二人が取り上げない数々の名曲を取り上げる。なるほど、名誉音楽監督は”家長”のように、東京フィルのシーズン全体を見守る役割を果していくのだろう。
チョン・ミョンフン (C)上野隆文

チョン・ミョンフン
(C)上野隆文

 東京フィルの新シーズンには、この軸となる三人に加え、二人の日本人マエストロが登場する。
 レジデント コンダクターとして長く共演を重ねる渡邊一正は、意外にも新シーズン唯一となるブラームスを演奏する。フランツ・リスト国際ピアノコンクールで優勝した阪田知樹の登場にも注目だ。
 もう一人の日本人マエストロは伊藤翔、第1回「ニーノ・ロータ国際指揮コンクール」で優勝したばかりの若き指揮者だ。小山実稚恵との共演で贈るチャイコフスキーの名曲で、彼の実力が示されることになるだろう。

 成長を続ける若きマエストロから世界の巨匠まで、それぞれに個性の異なる五人のマエストロが贈る新シーズンはどの演奏会でも魅力的な音楽が聴かれるだろう。「バッティストーニ時代」の開幕が今から待ち遠しい。
文:千葉さとし

■2017-18シーズン定期演奏会ラインナップ
https://ebravo.jp/tpo/2017_18