佐渡裕の音楽にあふれる「大男の優しさ」

 私が佐渡裕さんと初めて出逢ったのは、今から二十数年前、札幌でレナード・バーンスタインが創設した教育音楽祭PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)でのことだった。そのとき私は、思わず、「うわっ。でかっ!」と言ってしまった。すると彼は、人なつっこい笑顔を浮かべながら、(私と同じ)京都弁丸出しの口調で、「一緒やん。お互い、そないに変わらへんやん」と答えた。
 そういえば10年ほど前に、彼が突然「武満サンの音楽って聴く?」と切り出したこともあった。私が「あんまり聴かんなぁ」と答えると、「そうやろ。僕もそうやった。けど最近急に、スゴイ!と思うようになって、楽譜見て聴き直すと素晴らしい曲ばっかりやねん。ほんまに美しい綺麗な曲だらけ・・・」
 私は、あんたはプロの指揮者なんやから、そこまで正直に言わんでも・・・と心の底で苦笑いしながらも、この大男の音楽に対する純粋な気持ちに感激していた。  
 そんな佐渡裕さんが東京フィルの指揮台に立ち、武満徹の音楽やブルックナーの交響曲を指揮する。彼の師匠のバーンスタインは、マーラーのエキスパートとして有名で、数少ないブルックナーの録音では、まるでマーラーのような粘り気のあるサウンドを響かせている。はたして弟子の佐渡さんは、どんなブルックナーを聴かせてくれるのか?
 そしてトーンキュンストラー管弦楽団との活動を2022年まで延長することになった彼が、どんな「本場」のブラームスを聴かせてくれるのか? ワクワクするほど楽しみなコンサートだが、彼の奏でる音楽の底には、常に優しさがあふれているにちがいない。
文:玉木 正之(スポーツ&音楽評論家)

撮影:飯島隆

撮影:飯島隆

第888回 オーチャード定期演奏会
2017.1/22(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール
第889回 サントリー定期シリーズ
2017.1/27(金)19:00 サントリーホール
指揮:佐渡 裕
笙:宮田まゆみ*

武満 徹/セレモニアル -An Autumn Ode-*
ブルックナー/交響曲第9番(ノヴァーク版)

第106回 東京オペラシティ定期シリーズ
2017.1/26(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:佐渡 裕
アコーディオン:御喜美江*

ワーグナー/歌劇『タンホイザー』序曲
ピアソラ/バンドネオン協奏曲*
ブラームス/交響曲第1番

問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522
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